みかん小説
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"焼け跡の花束" 第8話

「売れないパンでも、腹を空かせた子には同じパンです」

親方は最初、運ぶを嫌がった。しかし健が仕事のに自分で届けると約束し、やがての正式な取り組みになった。

30、健は職としてになり、さなを持つことを考え始めた。その頃には叔父夫婦とも関係が改善し、従兄たちとは兄弟のようにき来するようになっていた。

源蔵の息子・正郎も商伝い始め、焼け跡周辺のにはしい宅やが建ち始めた。レンガ壁だけは所関係が複雑で、く取り残されていた。

町の復興計画がむと、壁を取り壊してを広げる話がた。健は保を願ったが、老朽化した壁は倒壊の危険があり、残すことは難しかった。

「壁がなくなったら、子さんの所もなくなる」

が言うと、源蔵は帳面を机へ置いた。

所はここだけじゃない。おが届けたパンのにも、子さんはいる。達夫の仕事にも、信が縫ったにもいる」

それでも、健には簡単に受け入れられなかった。焼け跡の壁は、母や妹を失い、子と会い、再びきる力を得た所だった。建物の部ではなく、自分のの境目そのものだった。

源蔵は町役と交渉し、壁のレンガを数個保する許を得た。帳面、子の写真、健が最初に置いたの押しと共に、朝倉商角へさな記棚を作る計画だった。

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「全部を残すことはできない。でも、残すものを選ぶことはできる」

はようやく頷いた。復興とは、古いものをすべて消すことでも、すべてをそのまま守ることでもない。失ったもののを次の暮らしへ持っていくことなのだと、しずつ理解した。

336、レンガ壁の取り壊しが決まった。戦から13、焼け跡にち続けた壁はひび割れがみ、震が起きれば側へ倒れる危険があった。

取り壊しの、健は朝番の列で町へ戻った。24歳になり、い製パンから作業着を羽織っていた。にはレンギョウとい野を抱えていた。

源蔵、達夫、信子を所の々も集まった。子は施設を護助として働いており、夜勤けのまま駆けつけた。方が分からなかった勇についても、の農で元気に暮らしているというが届いていた。

は壁のを置いた。最初にを供えた9歳のから15が過ぎていた。

子さん、壁がなくなります。でも、ここへ来られなくなるわけじゃないから」

はそう語りかけた。以なら、壁が壊されることを子との別れだとじただろう。今は、その所で受け取ったものを自分が別の所へ運んでいると分かっていた。

作業員がのレンガからし始めた。

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崩すのではなく、保する部分を傷つけないよう、作業で慎に取り除いた。

壁のくまでんだ、レンガの隙から属製のさな缶が見つかった。錆びて蓋が固まり、表面には煤が付着していた。

源蔵が具で蓋をけると、には油に包まれた枚の写真が入っていた。焼け跡のレンガ壁ので、子と6の子供たちが並んでいた。

もその写真に映っていた。痩せた体で子の隣へち、久しぶりに笑っていた。写真を撮られた記憶はなかった。

裏には、子の字で付と子供たちの名かれていた。

〈昭209。みんなが別々の所へっても、いつか名を呼びえるように〉

写真は、町を訪れた聞記者が撮ったものだった。子は枚だけ受け取り、誰かに奪われたり事で失ったりしないよう、レンガの隙へ隠したらしい。

子さんは、自分も忘れられたくなかったんだ」

が呟いた。

は首を横に振った。

「僕たちが、自分の名を忘れないようにしたんだとう」

戦争で族も戸籍類も失い、自分が誰なのかを証できない子供がかった。子は子供たちが別々に引き取られたも、互いのを確かめられるよう、写真と名を残していた。

は写真を両で持ち、子の顔を見つめた。彼の記憶にある子より若く、し疲れていたが、子供たちの央で確かに笑っていた。

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