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完結第11話
最後の迷子放送
昭和49年、地方都市の駅前にある丸光百貨店では、毎月第1日曜日の午後3時になると、決まって同じ迷子放送が流れていた。 「京ちゃん。京ちゃん。お母さまが1階案内所でお待ちです」 しかし、その名前を呼ばれても、子どもが現れることは一度もなかった。案内所で働き始めたばかりの中村恵子は、不思議に思いながらも、毎月やって来る小柄な婦人の頼みを見つめ続ける。 なぜ彼女は、何年も同じ名前を呼び続けるのか。 そして、放送が最後になると告げられた日、ずっと現れなかった「京ちゃん」が、ついに百貨店へ戻ってくる――。昭和1.6万字5 524 -
完結第10話
五輪を見なかったテレビ屋
昭和39年10月10日、東京オリンピックの開会式の日。 商店街のテレビ店「藤田電器」には、テレビを持たない町の人々が集まり、店先の白黒画面に映る国立競技場を見つめていた。日本中が復興の喜びに沸くその日、店主の藤田信夫だけは、なぜか開会式を見ようとしなかった。 息子の浩一が店の奥を探すと、父は倉庫で古い木箱の前に一人座っていた。 「父ちゃん、始まったよ」 そう声をかけても、信夫はただ「お前は見てこい」と言うだけだった。 それから長い年月が過ぎ、父の死後、浩一は倉庫の奥から一冊の手帳と、昭和21年の上野で撮られた古い写真を見つける。そこには、戦後の焼け跡を生きた父と、4人の少年たちの姿が残されていた。 なぜ父は、日本中が歓声を上げた東京五輪の開会式を見なかったのか。 古い手帳に残された約束が、浩一の知らなかった父の戦後を静かに明かしていく――。昭和1.6万字5 364 -
完結第14話
帰れなかった15歳
昭和35年、15歳の佐和子は、弟たちを助けるために集団就職列車へ乗り込んだ。 向かう先は東京。母が持たせてくれた竹皮の握り飯を抱え、佐和子は故郷を後にする。だが上野駅に到着した時、点呼に彼女の姿はなかった。 座席に残されていたのは、食べかけの握り飯だけ。 「怖くなって逃げた」「男と消えた」――小さな町では、心ない噂だけが広がっていく。それでも母だけは、娘が理由もなく姿を消すはずがないと信じ続けた。 それから23年後。 同じ列車に乗っていた同級生のもとへ、一通の封書が届く。 「佐和子は、東京まで来ています」 あの日、少女は本当にどこへ消えたのか。 母が知らなかった23年の真実が、ようやく動き出す。昭和2.1万字5 1904 -
完結第10話
ラジオの涙
昭和26年、東京郊外の小さな家で、父は毎晩8時になると必ず古いラジオの前に座っていた。 家族が眠る時間になっても動かず、静かに放送へ耳を傾ける父の目には、いつも涙が浮かんでいた。 息子は、戦争で失った誰かを思い出しているのだと思っていた。 しかし、父が亡くなった後、押し入れの奥から見つかった一枚の古い紙が、家族の知らなかった過去を明らかにする。 終戦の日、小さなラジオを囲んだ兵士たち。 そこで父が感じた、決して忘れることのできない「ある瞬間」とは――。 一人の父が何十年も胸にしまい続けた、涙の本当の理由が今明かされる。昭和1.4万字5 427 -
完結第10話
名前のない弁当箱
昭和28年、東京下町の小さな町工場に、毎月決まった日に名前のない弁当箱が届き始めた。 中には手作りの弁当だけ。差出人の名前も、手紙もない。 戦後の苦しい時代、社員たちを支え続けた社長・山本源一郎は、その弁当の送り主を知っているようだった。 しかし、何十年もの間、彼は決してその名前を明かそうとはしなかった。 なぜ誰かは、名乗ることなく弁当を届け続けたのか。 そして、その小さな弁当箱に込められていた、戦後から続く約束とは――。昭和1.5万字5 377 -
完結第10話
忘れられなかった一つの名前
昭和32年、父・佐藤隆一は、古びた軍服のボタンを何十年も大切にしまっていた。 家族が「もう捨ててもいいのでは」と言っても、父は決して手放そうとしなかった。 しかし、父の死後、そのボタンの裏に刻まれた見知らぬ男の名前が、息子・健一の知らなかった過去を呼び起こす。 なぜ父は、一つの古いボタンを守り続けたのか。 そこには戦争の記憶ではなく、時代を越えて守られた、一人の青年との約束が隠されていた――。昭和1.5万字5 575 -
完結第10話
焼け跡の花束
昭和22年、焼け跡が残る東京の街角で、毎朝誰にも知られず置かれる小さな花束があった。 野に咲く数本の花を、まだ幼い少年が古いレンガ壁の前にそっと置いていたのだ。 戦争で両親を失った少年を救ったのは、すべてを失いながらも一切れのパンを分けてくれた一人の女性だった。 それから何十年もの間、少年が守り続けた約束。 なぜ彼は、誰もいない焼け跡へ毎朝花を届け続けたのか。 戦後の混乱の中で生まれた、小さな優しさと忘れられない「ありがとう」の物語――。昭和1.5万字5 2650 -
完結第11話
手書きの時刻表
昭和45年、山あいの小さな駅で、1人の駅員が30年以上大切に続けていた習慣があった。 田村修一が毎月作る手書きの時刻表には、列車の時間だけではなく、利用者一人ひとりの暮らしや小さな約束が記されていた。 若い駅員には古い習慣に見えたそのノート。しかし、雪の日に病院へ向かう老人を救った時、彼は初めて気づく。 それは単なる時刻表ではなく、町の人々の人生をつなぐ大切な記録だった。 やがて田村の定年の日、古いノートの中から見つかった一つの名前が、若い駅員の心を揺さぶる――。昭和1.6万字5 1260 -
完結第11話
最後の上映会
昭和49年、40年以上続いた小さな映画館「銀星座」が閉館した。 最後の上映を終え、静かに幕を閉じたはずの映画館に、翌週から毎週1本の古いフィルムが届き始める。 添えられていた紙には、ただ一言。 「今週も上映してください」 不思議に思いながら映写機を回した館主・山下清治が見たのは、映画ではなかった。 そこに映っていたのは、かつてこの町で暮らした人々の笑顔、失われた風景、そして誰も忘れていた大切な時間だった。 送り主はいったい誰なのか。 なぜ閉館した映画館へ、毎週フィルムを届けるのか。 一本の古い映像が、昭和の町に残された記憶を静かに呼び起こしていく――。昭和1.6万字5 365 -
完結第10話
母が着続けた一枚の着物
昭和45年,母は20年以上もの間、同じ古い着物を着続けていた。 娘の美紀は、そんな母の姿をずっと「貧しいから我慢しているだけ」だと思っていた。正月も、結婚式の日も、新しい着物を選ばず、何度も直した一枚を大切にしていた母。 しかし、母が亡くなった後、古い着物の内側から見つかった小さな刺繍が、美紀の知らなかった過去を呼び起こす。 なぜ母は、その着物を何十年も手放さなかったのか。 そこには、戦後の苦しい時代を生きた女性たちの、忘れられない約束が隠されていた――。昭和1.5万字5 2322 -
完結第10話
白いハンカチの約束
昭和47年、東京郊外の団地。 3号棟の4階に住む老夫婦は、毎朝7時になると、ベランダに真っ白なハンカチを一枚だけ出していた。 洗濯物を干さない日も、雨が降りそうな日も、そのハンカチだけは必ず揺れている。近所の子どもたちは不思議がり、「誰かへの合図ではないか」と噂した。 けれど、その白い布を毎朝じっと見つめていたのは、向かいの棟で一人暮らしをする老女だった。 ある冬の朝、いつもの時間になっても白いハンカチが出なかった。 ただそれだけの異変に、老女は胸騒ぎを覚え、急いで部屋を飛び出す。 電話もない時代、近すぎず、遠すぎず、互いの暮らしをそっと見守っていた人たち。 一枚の白いハンカチに込められていた、昭和の団地の小さな約束の物語。昭和1.4万字5 1379 -
完結第10話
赤いバイクと最後の新聞
昭和50年、岐阜県の山あいに、全校児童がわずか3人だけの小さな分校があった。 給食もなく、冬は石油ストーブを囲んで授業を受けるような古い木造校舎。そんな子どもたちが毎朝楽しみにしていたのは、山の外の世界を伝えてくれる一部の新聞だった。 ところが、その分校は翌年3月で閉校することが決まる。教材も雑誌も次々と止まり、子ども新聞の購読も打ち切られた。 それでも、59歳の郵便配達員・田所信一は、雪の山道を越えて毎朝新聞を届け続けた。 誰も頼んでいない。もう学校も終わる。たった3人の子どものために、なぜそこまでするのか。 分校最後の日、子どもたちは初めて知ることになる。 田所が守ろうとしていたのは、新聞そのものではなかった――。昭和1.5万字5 559 -
完結第11話
余ったパンの嘘
昭和43年、東京近郊の古い木造小学校。 5年生の担任・村上昭一には、子どもたちが気になって仕方ない習慣があった。給食の時間になると、牛乳とおかずは食べるのに、コッペパンだけは毎日ほとんど口にしない。そしてそれを紙に包み、古びた革鞄の中へそっとしまうのだ。 「先生、今日も持って帰るの?」 子どもたちが尋ねても、村上はただ「腹いっぱいなんだよ」と笑うだけだった。 けれど、毎日続くその行動には、誰にも言えない理由があった。 ある放課後、どうしても気になった3人の男子は、先生の後をつけることにする。黒い自転車で工場町を抜け、川沿いの砂利道を進んだ先にあったのは、河川敷に建つ小さな家だった。 そこで子どもたちは、先生がなぜ「余った」と言い続けていたのかを知る。 1本のコッペパンに込められていたのは、ただの親切ではなかった。相手の誇りまで守ろうとした、静かな優しさだった。昭和1.6万字5 1739 -
完結第11話
母に届かなかった10円
昭和55年、駅前の公衆電話の横に、毎月25日だけ10円玉が一枚置かれるようになった。 落とし物にしては場所が不自然で、誰が置いているのかも分からない。新聞売りの森田は、毎月同じ日に現れるその小さな硬貨を不思議に思い、やがて駅前の子どもたちもそれを「10円の日」と呼ぶようになる。 そんなある冬の朝、森田はついに10円玉を置く女性の姿を見つける。 なぜ彼女は、誰にも知られないように毎月10円玉を置き続けていたのか。 その理由は、何十年も前、たった一枚の10円玉がなかったためにかけられなかった「あの日の電話」に隠されていた――。昭和|親子関係1.6万字5 731 -
完結第10話
売らなかった紙
昭和48年、オイルショックの不安が日本中を包み、商店街から次々と日用品が消えていった。 大阪の小さな乾物屋「丸福商店」にも、ある日、待ち望まれていたトイレットペーパーが入荷する。店先にはたちまち人が集まり、誰もが一つでも多く手に入れようとした。 ところが店主・福田源蔵は、奥に在庫があるにもかかわらず、こう貼り出す。 「本日、トイレットペーパーは販売いたしません」 客たちは怒り、源蔵を責めた。値上げするつもりなのか、隠しているのか、商売人としてひどいのではないか――。長年の常連までもが、冷たい言葉を残して店を去っていく。 それでも源蔵は、最後まで売らなかった。 その夜、店のシャッターが下りた後、彼は誰にも言わず、自転車の荷台に白い包みを積み始める。 売らなかったのは、儲けるためではなかった。 あの夜、源蔵が本当に守ろうとしていたものは、棚の商品ではなく、この町に残る小さな信用だった。昭和1.5万字5 2959