"消えた実印" 第2話
そんなわけないだろう」
「産の広告を持ってたのよ」
「マンションのことじゃないか。うちだって、いつかみ替えるかもしれないし」
「私のので見る必ある?」
「母さん、考えすぎだよ」
息子にも取りってもらえなかった。
それから文は、通帳と権利証を仏壇へ移した。以は寝の箪笥に入れていたが、織が掃除を実にけるかもしれないとったからだ。
それなのに、実印が消えた。
午10過ぎ、織が来た。
いベージュのコートを脱ぎ、何も言わずにを洗うと、仏壇のへ座った。
「どこまで探しましたか」
「全部よ」
「ほかの所へ移した能性はありませんか」
「私は、そんなことしない」
織は反論せず、引きしのをつずつ確認した。仏壇の、座布団の、箪笥の引きしまで探したが、実印はてこなかった。
「警察へ届けた方がいいかもしれません」
織が言った。
「そのに聞きたいことがあるの」
文は嫁の正面へ座った。
「あなた、うちのがいくらになるか調べてるでしょう」
織の顔が瞬こわばった。
「誰から聞きましたか」
「誰からも聞いてない。自分で見たのよ。産の広告」
「それは……」
「売ったおが欲しいの?」
「違います」
「じゃあ、どうして実印がなくなったの」
織は目を伏せた。
その沈黙で、文の疑いは確信に変わった。
「返して」
広告
「私が持っていると決めつけているんですか」
「あなたしかいないでしょう」
「昨、お義母さんが買い物へている、私は仏壇のにいました。でも引きしはけていません」
「そんなの、誰にも分からないじゃない」
織は何かを言いかけたが、やめた。
ちがり、バッグをに取る。
「今は帰ります」
「逃げるの?」
「このまま話しても、お義母さんは何を言っても信じないといます」
玄関へ向かう織の背に、文は言った。
「誕には来なくていいから」
織のが止まった。
3、文の70歳を祝うため、達也の族と由紀の族が集まる予定だった。正雄がきていた頃から、節目の誕には族全員で事をすることになっていた。
「美は、楽しみにしています」
織が振り返らずに言った。
「美は来ればいい。達也も。でも、あなたは来ないで」
「分かりました」
織はそれだけ答え、をた。
玄関の扉が閉まったあと、文は急にになった。
織を追いかけようとはわなかった。
自分は違っていない。
実印がなくなり、を査定する広告があり、織だけがでにいた。疑うのが当然だった。
それでも、織が最に見せた表が気になった。
っているのではない。
傷ついているようにも見えなかった。
何かを決めたの顔だった。
そのの夕方、達也から話が来た。
広告
「母さん、織と何があったんだよ」
「実印がなくなったの」
「織が取ったって言ったのか?」
「ほかに誰がいるのよ」
達也はきく息を吐いた。
「分かった。俺が探しにく」
「織さんは連れてこないで」
「分かったって」
話は切れた。
文はしした。
息子なら自分の側にってくれる。
そうった。
しかし、その夜遅く、織から通のメッセージが届いた。
《実印は、私が預かっています》
文は画面を見つめた。
続けて、もう文表示された。
《返すことはできません。なくとも、今は》
翌朝、文は達也へ織のメッセージを見せた。
息子はダイニングテーブルのにったまま、スマートフォンを何度も読み返した。
「織が持ってるって認めたの?」
「だから最初から言ったでしょう」
文は声をめた。
「すぐ返すように言って。あれは私の印鑑なのよ」
達也はすぐには返事をしなかった。いつもなら母親の話を聞きながら蔵庫をけたり、テレビのリモコンを触ったりするのに、そのは子にも座らず、落ち着かない様子で窓のを見ていた。
「何かってるの?」
「らないよ」
答えがすぎた。
「織には俺から聞く。ただ、実印だけなら印鑑登録を廃止すればいい。区役所で続きできるだろう」
「返してもらえば済む話でしょう」
「そうだけど、あいつがどこへ置いたか分からないかもしれないし」
「持ってるっていてあるじゃない」
達也は黙った。
文は息子の顔を見た。
頬がしこけている。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
義母に突き落とされたので、離婚します
十九年間、義母の虐待と夫の無関心に耐えてきたさつき。妊娠中、義母に階段から突き落とされ重傷を負うが、夫は愛人と過ごし、彼女の訴えを切り捨てる。 病室でさつきが残したのは、離婚届と「あなたが守らなかったものを、私は守ります」の一文。元刑事の父と証拠を集め、義母を実刑へ、夫を失職と離婚へ追い込む。因果応報|怒り|嫁姑|修羅場1.4万字5 29 -
完結第12話
空港に置き去りにされた妻は、もう帰らない
欧州出張から帰国したゆりを、夫と義母は成田空港へ置き去りにした。「四時間歩いて来い」と笑いながら、彼女を貧しいラーメン屋の娘だと見下して。 彼女は、夫の不倫や会社資金四千八百万円の横領を示す証拠を、すでに揃えていた。 空港から一本の電話をかけた三時間後、取引停止が相次ぎ、夫の会社は大混乱に陥る。嫁姑|夫婦|修羅場1.8万字5 654 -
完結第20話
結婚翌朝、五分遅れの朝食が暴いた秘密
結婚翌朝、朝食が五分遅れただけで、夫から親族全員の前で平手打ちされた管理栄養士の美咲。彼女は謝る代わりに、義父の御膳を床へひっくり返し、「食べさせられません」と告げる。 美咲が遅れたのは、心臓病を患う義父のために味噌汁を作り直していたからだった。義母から渡された“秘伝のタレ”には、義父の薬と組み合わさると命に関わる危険な成分が含まれていた。 しかも瓶の底には、義母自身の筆跡で《服用厳禁/致死性不整脈誘発確認済》と残されていた。単なる嫁いびりではなく、八年前から続く恐ろしい企みが明らかになり、夫と親族の立場は一気に逆転する。怒り|嫁姑|夫婦|裡の顔|修羅場1.9万字5 1354 -
完結第16話
離婚3か月後、元義母に300万円を要求された私
離婚から三か月後、美緒のもとへ元義母から電話が入る。事故で入院した元夫・達也のため、今すぐ三百万円を持ってこいというのだ。美緒は鼻で笑い、「新しいお嫁さんに頼んでください」と断る。 ところが、社長令嬢だと信じられていた新妻・優奈は、達也の金を持って姿を消していた。さらに達也は見栄を守るため借金を重ね、実母には内容を偽った書類へ実印まで押させていた。 しかも「命に関わる治療費」という三百万円には、滞納した返済やカード代まで含まれていた。美緒を再び財布として利用するための嘘だったのだ。嫁姑|夫婦|金銭問題1.5万字5 444 -
完結第13話
お湯を奪われた嫁
真冬の夜、義母から「安月給の嫁には水で十分」と風呂を禁じられた真理子。三年間、家計と家事を支えながら侮辱に耐えてきた彼女は、その日を境に生活費の負担をすべて停止する。 月九万円と無償の家事が消え、夫と義母の暮らしはたちまち崩れ始めた。そんな中、真理子は床下から亡き義父の黒革の手帳を発見する。 そこには、彼女の生活を守るために遺された二千万円の信託と、虐待があれば義母の居住権を失わせる誓約書が隠されていた。しかも夫は、その金を三年間にわたり遊興費へ流用していた。 お湯さえ惜しんだ親子に突きつけられる、凍結された口座と刑事告訴の可能性。沈黙を捨てた真理子は、奪われた金だけでなく、自らの尊厳と人生を取り戻すため、静かな清算を始める。因果応報|嫁姑|修羅場1.9万字5 506 -
完結第15話
白米だけの夕飯を出されたので、家を出ました
年度末の仕事を終えて帰宅した麻子を待っていたのは、冷めた白米だけの夕食。夫と義母は特上寿司を食べながら、「反省したらおかずを出す」と笑った。 「外で牛丼でも食べてきたら?」という夫に、麻子は静かに「分かりました」と答える。しかし彼女は半年前から新居や弁護士の手配を進め、大切な荷物も運び終えていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|修羅場2.0万字5 21 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 681 -
完結第12話
私にだけハズレ料理を出す義母の誤算
月に一度の義実家での食事会。真希にだけ、焦げたご飯、肉のない煮物、殻付きのエビ、骨だらけの刺身が出される。しかし夫・隆は「偶然だ」「被害妄想だ」と、母親を庇い続けた。 妊娠を知った真希は、わが子を守るため、記録を残しながら静かに脱出の準備を始める。そんな中、義母は「誰がハズレを引くかしら」と、中身の違うメンチカツを食卓へ並べた。 真希が選んだ一つを切ると、中から現れたのは肉ではなく、形を整えたかまぼこ。長年「偶然」で隠されてきた嫌がらせが、夫と義父の前で初めて暴かれる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場1.3万字5 1558 -
完結第20話
家族投票の三日後
お盆の親族会で、地味な事務員として働く美緒は、姉から「家族の投票で決めた。今すぐ出ていけ」と追放を宣告される。両親も親戚も、姉の婚約者も笑って賛成した。 しかし彼らは知らなかった。倒産寸前だった老舗旅館を救い、土地と建物を買い取った真の所有者が、美緒であることを。彼女が姿を隠して注ぎ続けた資金がなければ、旅館は一か月も維持できなかった。 美緒が援助を止めると、家族の浪費と巨額の不正支出が露見する。さらに姉の婚約者も、旅館の資産を利用して自社の損失を埋めようとしていた。そして三日後、華やかな結納の最中、執行官と弁護士が現れる。怒り|嫁姑|金銭問題|修羅場1.9万字5 1041 -
完結第13話
娘夫婦に貸した愛車を「名義変更して」と言われた日
67歳の修司が、娘夫婦へ半年だけ貸した愛車。返却を求めると、婿は当然のように言った。 「もう僕の名義に変えてもらえませんか」 だが車はすでに420万円で査定され、600万円を超える新車の下取りに使われようとしていた。さらに、娘夫婦へ貸した住宅資金1000万円も、返済されたはずの30万円が一度も届いていない。 調べるほど現れる、消えた500万円の投資、偽造された「300万円返済済」の記録、そして亡き妻名義の借用書。 家族への援助は、いつから「もらって当然の財産」に変わったのか。修司は車の鍵だけでなく、自分の人生を決める権利まで取り戻そうとする。親不孝|絶縁|親子関係|金銭問題1.9万字5 701