"車に私の席はなかった" 第3話
いつもなら夕飯の支度で台所にち、慌ただしくち働いているである。
まな板ので野菜を気よく刻む音も、鍋ので汁が甘く匂いつことも、今の私にはない。
私が暇かけて作った料理を、お腹を空かせて待っている族はもう誰もいないのだ。
ふと、ダイニングテーブルのに無造作に置かれた束が目に入った。
数に届き、絵理がまとめたまま放置している量の賀状だった。
私は何かに引き寄せられるようにづき、その束をに取った。
輪ゴムでまとめられた葉を、暗い部のわずかなを頼りに枚ずつゆっくりと裏返す。
宛名には、林直哉、絵理、翔太、美咲との名が並んでいた。
族の幸せそうな写真が印刷された裏面を見る。
「今も族で頑張ります」
何枚めくって確かめても、はる子という私の名は枚たりとも見当たらなかった。
夫の親戚や、昔からのりいからの賀状でさえ、私の名は見事に省かれていた。
まるで初めから、このに私がんでいないかのようだった。
の正、こので親戚の会があったのことをいす。
絵理は私に笑いを向けた。
「お義母さんは台所の方が落ち着くでしょう」
絵理はそう言って、私をリビングからざけた。
親戚たちの賑やかな話し声や笑い声が響く、私はでひたすら皿を洗い続けていた。
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たまにお茶のお代わりを持っていこうとすると、直哉がで制するようにして私を遮った。
お祝いの席にを差したくなくて、私は笑いを浮かべてしく引きがった。
あのからすでに、私は親族の輪のから静かに、そして確実に締めされていたのだ。
賀状の束をテーブルに戻すと、指先が微かに震え、全の温度ががるのをじた。
突然、部の隅にある固定話がけたたましく鳴り響いた。
族全員がスマートフォンを持っている。
今、この話が鳴ることは滅にない。
私はし戸惑いながらも、暗がりのを歩いて受話器を持ちげた。
「はい、林ですが」
話の主は、き夫の妹である恵子だった。
恵子は堵したような声をげた。
「はる子さん、話にられるくらいには回復したのね」
恵子の第声に、私はわず首を傾げた。
回復も何も、私は毎健康に事をこなし、自分のでスーパーにも通っている。
「ええ、邪つ引いていないわ。どうしたの、こんな夜に」
私が当たりの声で返事をすると、話の向こうで恵子がさく息を呑む気配がした。
恵子は戸惑ったように言った。
「えっ、でも絵理さんからは、ずっと寝たきりだと聞いていたわよ」
寝たきり。
その信じられない言葉に、私は受話器を握るに力を込めた。
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恵子はしになって続けた。
「先の法事のも、はる子さんは認症がんで入院しているから来られないって」
恵子はため息をついた。
「直哉君も、母のことは自分たちに任せてくれって、親戚のみんなにをげていたのよ」
臓がたい氷の塊でギュッと掴まれたような気がした。
先の親戚の法事の、直哉は私に向かってこう言っていた。
「しはお寄りには負担だから、母さんはでゆっくり留守番していてよ」
私はその言葉を、息子からの優しい気遣いだと信じて疑わなかった。
「そうだったのね。配かけてごめんなさい。今はもうすっかり丈夫よ」
私はどうにか声を絞りし、平静を装って相槌を打ち、話を切った。
受話器を置いた私のは、微かにしかし止まることなく震えていた。
しいというより、得体のれない気悪さが元からいがってくるようだった。
彼らは親戚や周囲のに対して、私がい病気であるかのように嘘をつき続けていたのだ。
私がこので政婦のようにこき使われている現実を、誰にもられないために。
そして、親族の集まりに顔をさなくて済むための、最も都の良い言い訳として。
世体を何よりも気にする絵理にとって、田舎から来た姑というは邪魔なだったのだろう。
直哉もまた妻の残酷な嘘に加担し、親族ので派な息子を演じ切っていたのだ。
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