みかん小説
本棚

"五輪を見なかったテレビ屋" 第10話

と声をげていた。

その、信夫は暗い倉庫で箱のに座っていた。

箱のには1枚の写真があった。

昭21、野。

壊れた建物を背景に、5のが並んでいる。

はぶかぶか。

靴を履いていない子もいる。

全員痩せている。

それでも若い信夫は、わずかに笑っていた。

昭23。

5は、国を乗せたを見ながらのような話をした。

「いつか本が、世界からを呼べるくらい元気になったら、みんなでもう度集まろう」

本気だったのか。

冗談だったのか。

子どものことだ。

きっと、その両方だった。

ただ、その言葉には別のがあった。

そこまできよう。

もきよう。

来もきよう。

いつか本がもう度元気になるまで、自分たちもき残ろう。

その願いを支えにした夜もあったのかもしれない。

けれど5はれれになった。

施設へ入った者。

方へ働きにた者。

病気になった者。

方が分からなくなった者。

信夫はになって探した。

だが再会できなかった。

そして16、本当にそのが来た。

世界からが京へ集まった。

たちには像もできなかったほど、は変わっていた。

焼け跡だった所には建物がち、腹を空かせていた信夫は自分のを持っていた。

そのにはテレビが何台も並んでいた。

本の復興を象徴するような景ので、信夫だけが過を忘れることができなかった。

広告

だから、見なかった。

いや。

浩はもう、その言い方は違うとっていた。

父は確かに京オリンピックを迎えていた。

テレビの画面ではなく、写真のの4と緒に。

の歓声を聞きながら。

半分閉めたシャッターの向こうに広がる昭39の京と、箱のに残された昭21の京を、同に見ていた。

あの、浩が倉庫へ入った、父は何かを言いかけた。

今になっても、その言葉が何だったのかは分からない。

「本当は見たいんだ」

そう言おうとしたのかもしれない。

「昔の仲と約束したんだ」

そう説しようとしたのかもしれない。

あるいは、何も説するつもりなどなかったのかもしれない。

それでいいと浩はうようになった。

分からない言葉を無理に作る必はない。

父が残した写真と帳が、分に語っていた。

さらに、別のノートには父が何も続けたさな記録が残っていた。

テレビ1台、100円。

蔵庫1台、100円。

洗濯1台、50円。

そのは児童養護施設へ渡されていた。

誰にも言わず。

褒めてもらうこともなく。

信夫自が子どもの頃、名もらないたちに助けてもらったからだった。

帳の最の言葉を、浩は々読み返した。

「返す相がいないなら、次の子に返せばいい」

それを読むたび、浩は父のが本につながって見えた。

焼け跡でべ物を受け取った。

広告

仲と1つの芋を分けた。

気の仕事を覚え、を持った男。

テレビを買えない所のへ会式を見せた主。

が1台売れるたび、さな額を別の子どもたちへ送り続けた父親。

どれも同じ藤田信夫だった。

戦19。

本は驚くほどく変わった。

々はしいを建て、しいを着て、しいを買った。

はるくなった。

活は便利になった。

昭39の京オリンピックは、その変化を象徴するきな来事だった。

くのにとって、それはびそのものだった。

しかし、るい代が来たからといって、暗かった代の記憶が消えるわけではない。

しい暮らしをびながらも、そこまで緒に来られなかったを忘れられない者もいた。

成功したからこそ、過をいす者もいた。

き残ったことをびながら、そのびを分かちうはずだった相を探し続ける者もいた。

藤田信夫も、その1だった。

昭391010。

藤田器の先では、商の々がテレビので歓声をげていた。

本選団が映る。

拍が起こる。

「すごいなあ」

「本もここまで来たんだな」

誰かがそう言った。

その声は、半分閉められたシャッターの向こうまで届いていた。

の奥では、48歳になった信夫が古い箱のに座っていた。

元には、痩せた5のが並ぶ写真があった。

正ちゃん。

鉄。

幸。

清。

そして信夫。

5で約束したが、ようやく来た。

4がどこにいるのかは分からない。

もう会えないのかもしれない。

それでも写真のでは、5はれていなかった。

国競技からくれたさな器の倉庫で、信夫はその写真と向きいながら、から聞こえる歓声を静かに聞いていた。

だった頃には像もできなかったほど、本は豊かになった。

自分も48歳まできた。

を持った。

妻と子どもを持った。

毎事ができる。

誰かへ物を分ける側にもなれた。

それでも、忘れなかった。

自分が1でここまで来たわけではないことを。

浩が父の本当のいをったのは、会式から何もだった。

遅すぎたかもしれない。

きているに聞ければよかったともう。

けれど、父が言葉にしなかったからこそ、箱のの写真や帳はいを越えて残った。

そして浩はようやく理解した。

あの、父は京オリンピックを見なかったのではなかった。

誰よりもそのを待ち続けた末に、テレビのではなく、かつて「そんなが来るまできよう」と約束した4の仲とともに、静かにその瞬を迎えていたのである。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: