"名札を戻せなかった夏" 第2話
美津子が言うと、澄も頷いた。
「うん。絶対戻そう」
それだけのことだった。
2にとっては、い疎の旅の途でいついた、ほんのさないたずらにすぎなかった。
けれどその夜、疎先へ到着した子どもたちは疲れ切っていた。
荷物を運び、先の指示を聞き、勢で寝る所を決め、見らぬ寺の本堂に並べられた布団へ入る頃には、名札を交換したことなど2ともすっかり忘れていた。
そして翌朝になっても、それを元へ戻す会はなかった。
しい活が始まり、次から次へとやらなければならないことが押し寄せてきたからだった。
胸についた名は、そのまま残った。
そのさな布切れが、やがて2のそのものを入れ替えることになるとは、このは誰も像していなかった。
疎先は、野県のあいにある寺だった。
京で育った美津子にとって、周囲をに囲まれた景は初めて見るものだった。々はなく、し歩けば畑が広がり、夜になると京では聞いたことのない虫の声が暗のから響いた。
寺の本堂には何枚もの布団が並べられた。
子どもたちは決められた所で眠り、朝になると斉に起きた。にいた頃のように、母親が布団をめくって起こしてくれる者は誰もいなかった。
美津子は最初の数、目を覚ますたびに自分がどこにいるのか分からなくなった。
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すぐ隣では澄が眠っていた。
その胸元には、まだ「桐美津子」とかれた名札がついている。
美津子の胸には「森澄」。
「戻さなきゃね」
ある朝、美津子が声で言った。
澄も頷いた。
「今、あとでね」
ところが事のには掃除があり、そのは先から活についての話を聞き、畑仕事を伝うことになった。
子どもたちが自由に裁縫具を使えるなどほとんどない。
夜になれば疲れ切って布団へ倒れ込んだ。
そうして1が過ぎ、また1が過ぎた。
交換した名札は、いつのにか2のに馴染んでいった。
先たちは名だけでなく顔もある程度覚えていたため、名札が入れ替わっていることには気づかなかった。席を取るも、2は本来の名で返事をしていた。
だから誰も困らなかった。
「今度、ちゃんと戻そう」
何度かそう話しながらも、急ぐ理由がなかった。
寺での活は厳しかった。
事は麦の混じった飯にい噌汁。々量の野菜がついたが、育ち盛りの子どもたちにはりなかった。
事が終わった直なのに、腹が減ったと言う子がいた。
最初の頃は満をにしていた子どもたちも、やがて何も言わなくなった。残さずべ、茶碗についた米粒まで丁寧に取るのが当たりになった。
畑仕事も伝った。
さなでを触り、野菜を運んだ。
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へ薪を拾いにくこともあった。
美津子と澄は緒になることがかった。
「京に帰ったら、何がべたい?」
を歩きながら、美津子が聞いた。
澄はし考えた。
「いご飯」
「それだけ?」
「いっぱいべたい。麦が入ってないやつ」
美津子は笑った。
「私はお母さんのお汁」
「甘いやつ?」
「うん。お餅が入ってるの」
「いいなあ」
そんな話をすると、ほんのしだけがくなったような気がした。
京から届くは、子どもたちにとって何よりの楽しみだった。
寺に郵便が届くと、皆がそわそわした。
先が名を呼ぶたび、子どもたちは斉に顔をげた。
美津子にも最初のうちは母親からが届いた。
体に気をつけること。
先の言うことをよく聞くこと。
ご飯を残さないこと。
い文章のに、母親がいつもで言っていた言葉が並んでいた。
美津子は何度も読み返した。
の端を触るだけで、母親のに触れているような気がした。
澄にも母親から便りが届いた。
「お母さん、元気だって」
澄は嬉しそうに美津子へ見せた。
内職は忙しいが、無事にやっている。
れていても毎澄のことを考えている。
その文字を読みながら、澄は何度も笑った。
2とも、そのはまだ信じていた。
戦争が終われば帰れる。
母親が待っている。
に帰れば、疎のに持ってきた荷物をほどき、胸の名札も元へ戻せる。
それは疑う必のない未来だった。
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