"預かったままの革靴" 第1話
昭25。戦争が終わってから5が過ぎた京では、しい建物がしずつ増え始めていた。それでも駅の周辺には焼け跡の名残が残り、古い造やのを、朝くから勢のがき交っていた。
聞を抱えて声を張りげる、背いっぱいに荷物を背負った商、働きを探して駅を歩き回る男たち。駅の改札から会社員や役所勤めの々が次々と吐きされる頃、広の片隅ではさな箱をにしたが仕事を始めていた。
の名は健。13歳だった。
「靴磨き、どうですか」
通勤客の顔を見げながら、何度も声をかける。目をわせず通り過ぎていくもかったが、ち止まってくれる客がいれば、健はすぐに箱のへさな台をした。
「お願いします」
男が片を載せると、健はまずブラシでや埃を落とした。縫い目に入り込んだ汚れまで丁寧にかきし、それから靴墨をく伸ばしていく。最に柔らかくなった古布で何度も革をこすると、くすんでいた表面が徐々にを取り戻した。
「お、きれいになったな」
その言を聞くと、健はしだけ胸を張った。
代は数枚の貨だった。それをさな缶へ入れ、また次の客を待つ。その貨で事を買い、夜に寝る所を確保することが、健の毎だった。
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父親は戦争へったまま帰ってこなかった。きているのか、それともどこかでくなったのか、はっきりしたことさえ分からなかった。
母親は終戦の混乱が続くで病気になり、そのままくなった。親戚に頼ることもあったが、どのにも余裕はなく、健をく置いておくことはできなかった。
9歳で母を失った健は、いつしか駅くの簡易宿泊所を転々とするようになった。泊まるがりないは軒や物で夜をかすこともあった。
はまだよかった。
つらいのはだった。
たいが駅を吹き抜けると、靴を磨くはすぐに赤くなった。指先には細かなひびが入り、靴墨が傷へ染み込むたびに痛みがった。
履いている靴も古かった。
底は何度も自分で補修していたが、のには隙からが入り、靴はすぐに濡れた。
それでも健は毎朝、同じ所へ来た。
「休んだら、そのの飯がなくなるからな」
仲からそう言われるまでもなかった。働かなければべられない。それは誰に教わることでもなく、健が幼い頃からにつけていた覚だった。
ただ、そんな健の仕事には、いつも妙なものが置いてあった。
の黒い革靴だった。
しいものではない。むしろ、かなり履き込まれた古靴だった。
のつま先にはい傷があり、のかかとはしすり減っている。
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革には何度も入れされた跡があり、等な靴というわけでもなかった。
それなのに健は、客が途切れるとその靴をに取った。
ブラシで埃を払い、靴墨を塗る。そして、自分の仕事具ので番きれいな布を使って丁寧に磨いた。
仲の靴磨きは、何度も議そうにその様子を見ていた。
「健、それ売らないのか」
「売らない」
「じゃあ履けばいいじゃん。おの靴よりずっとましだろ」
健は首を横に振った。
「俺のじゃない」
「じゃあ誰のだよ」
健は磨いていたを止めずに答えた。
「取りに来るんだ」
「誰が?」
「持ち主が」
仲は呆れたように笑った。
「いつ来るんだよ」
その質問だけには、健は答えなかった。
答えられなかった。
自分でも分からなかったからだ。
その革靴が健のに置かれたのは、4。昭21のだった。
その頃、健はまだ9歳だった。
昭21の京は、まだ全体が戦争の傷のにあった。駅には焼けた建物の跡が残り、材やトタンを寄せ集めて作ったさなが並んでいた。
母親をくしたばかりの健は、毎どこで寝るかを考えながら暮らしていた。
親戚のにを寄せた期もあった。だがそのにも子どもがいて、べ物は分ではなかった。
ある夜、健はたちが声で話しているのを聞いた。
「うちだって、もう限界だよ」
「でも、あの子を追いすわけにも……」
その続きは聞かなかった。
翌朝、健は自分からをた。
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