"退職と書かれた娘たち" 第7話
「こんな所で何してる」
「トヨちゃんのことを調べています」
トメは瞬黙った。
「帳簿を戻しな」
「医者は休ませろっていてあります」
「おには関係ない」
「退職したいって言ったのに、認めなかったんですか」
「戻しなさい」
トメの声がくなった。
フミは帳簿を抱えたままかなかった。
「志乃さんを悪者にしたのは、この記録を隠すためですか」
その言葉に、トメの表が変わった。
「何もらんくせに」
「じゃあ教えてください」
「ったところでどうする」
フミは答えられなかった。
トメはく息を吐いた。
「を潰したいのか」
「そんなこと言ってません」
「ここがなくなったら、おら全員仕事を失うんだぞ」
トメの調には、りだけでなく疲れが滲んでいた。
「会社は利益をさなきゃならん。娘がし咳したからってずつ休ませてたら、械が止まる。借りしたも、寄宿舎の費用も、誰かが払わなきゃならん」
「でもトヨちゃんは病気だった」
「分かってる」
トメは目を伏せた。
「私だって分かってるよ」
フミはわず黙った。
トメは若い頃、自分も女だったと話し始めた。15歳でへ入り、30以、所を変えながら紡績の現で働いてきた。病気で倒れる娘も、械に巻き込まれる娘も、故郷へ帰れず泣く娘も何も見てきた。
「を助けたら、次も助けろと言われる。
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全員を助けられん。それで何度も揉めた」
「だから黙ってたんですか」
「違う」
トメは苦しそうに首を振った。
「志乃のこともってた」
フミは驚いた。
「裏をけてたのは、私だ」
すべてがつながった。
娘たちがの翌朝に消えた理由。
舎監がいつも同じ言葉で説していた理由。
志乃では、寄宿舎から毎娘を逃がすことなどできなかった。
「じゃあ、どうして今になって志乃さんを」
トメは答えなかった。
その沈黙が何よりの答えだった。
会社から責任を押しつけられたのだ。
トヨがくなり、警察がき始めた。
無断退職を助けしていたことが表にれば、の管理責任が問われる。
そこで全てを志乃のせいにした。
「トヨちゃんがんだのは志乃さんのせいじゃない」
フミが言うと、トメは目を閉じた。
「分かってる」
「なら言ってください」
「言ったら私も終わる」
「でも」
「私には娘がいる」
トメの声が震えた。
「嫁にした娘に子供が3いる。亭主が病気で、毎私がを送ってる。ここを追いされたらどうなる」
フミは言葉を失った。
皆、同じだった。
も、自分も、トメも。
守りたい活がある。
だから黙る。
それを「仕方がない」と呼んでいる。
トメはフミへづいた。
「帳簿を戻して、今夜のことは忘れな」
「できません」
「フミ」
「トヨちゃんがんだ理由を、志乃さんのせいにはできません」
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トメはしばらくフミを見つめた。
やがて諦めたように肩を落とし、箱から枚のを取りした。
「これも見な」
それはトヨが宛てにいた退職願だった。
〈病気のため作業続け難く、退職を願います〉
そのには赤い字で、
〈借残につき〉
とかれていた。
フミはを握った。
もう疑う余はなかった。
トヨはを辞めたくても辞められなかった。
志乃は、そのを作った。
しかし、をたからといって病気が治るわけではない。
トヨはすでに体を壊していた。
自由になったには、遅すぎた。
「これを持ってったら、は黙ってない」
トメが言った。
フミは頷いた。
「分かってます」
本当は分かっていなかった。
を敵に回すことが、16歳の自分に何をもたらすのか。
それでも、を戻すことはできなかった。
翌朝、フミは帳簿を持ったままへ向かった。
そのに、晩考えた。
警察へ直接持っていくべきか。
聞社へ送るべきか。
そもそも、自分の言葉など誰かが信じてくれるのか。
朝、舎監のトメがフミのへ来た。
「今ならまだ戻せる」
その顔には昨夜の疲れが残っていた。
フミは首を横に振った。
「ごめんなさい」
「謝ることじゃない」
トメは度だけ目を閉じた。
「私にはできんかっただけだ」
その言葉を聞き、フミはへ向かった。
須藤は机のの帳簿を見た瞬、顔を変えた。
「どこから持ちした」
「倉庫です」
「勝に入ったのか」
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