"退職と書かれた娘たち" 第8話
「はい」
須藤は子からちがった。
「これは会社の記録だ。盗みと同じだぞ」
「じゃあ、警察に言ってください」
フミ自、声が震えているのが分かった。
須藤はしばらく黙っていた。
その横には事務主任と職監督がっていた。
「何が目だ」
「トヨちゃんが、どうしてを辞めたのかを話してください」
「病気で勝に辞めた」
「違います」
フミは退職願を机へ置いた。
「辞めさせてもらえなかったんです」
須藤の目が細くなった。
「借が残っていた。契約当然だ」
「医者は休ませろっていてあります」
「医者は医者のでく。にはの事がある」
「だから働かせたんですか」
「おは何も分かっていない」
須藤は声をめた。
「このには何百も働いている。注文を止めれば会社が潰れる。会社が潰れれば、おたちも故郷へを送れなくなるんだぞ」
「だから病気のを働かせてもいいんですか」
「世のはそんな簡単じゃない」
その言葉を聞き、フミは母のをいした。
あとしだけ辛抱しておくれ。
弟の清の顔が浮かんだ。
自分が今ここを追いされたら、送は止まる。
学どころか、今の学を続けることさえ難しくなるかもしれない。
須藤はフミの迷いを見抜いたようだった。
声をし落とした。
「余計なことを言わなければ、おの仕事は保証する」
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フミは顔をげた。
「この帳簿も、見なかったことにすればいい。志乃の件は警察が調べる。おが背負う話じゃない」
それは、逃げだった。
黙れば、仕事は残る。
もる。
族も守れる。
誰にも責められない。
「おが騒いだところで、世のは変わらん」
須藤は続けた。
「むしろ族を困らせるだけだ」
フミの胸が締めつけられた。
その言葉は正しかった。
なくとも部は。
自分が正義を振りかざしたせいで、母や弟が困るなら、それは本当に正しいことなのか。
その瞬。
千代の声がに浮かんだ。
〈嫌だって言えるわけないよ〉
父親に。
借に。
に。
皆、ずっとそう言ってきた。
仕方がない。
言っても無駄だ。
自分がすればいい。
フミは帳簿の表へを置いた。
「言います」
須藤の顔が変わった。
「何を」
「トヨちゃんが、どうしてをたのか」
「フミ」
「志乃さんが、どうして娘たちを逃がしたのか」
事務主任が歩へた。
「考え直せ」
フミは怖かった。
が震えていた。
それでも続けた。
「私は全部、話します」
そのの午、フミはを解雇された。
理由は「会社記録の無断持ちし及び命令違反」だった。
荷物をまとめるため寄宿舎へ戻ると、女たちは巻きにフミを見た。
誰も最初は声をかけなかった。
助けたいとっても、自分まで目をつけられるのが怖いのだろう。
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フミにも、その気持ちは分かった。
布団を畳み、母からのを呂敷へ入れていると、の15歳の娘がづいてきた。
「フミちゃん」
のミネだった。
さな包みを差しした。
には干し芋が2枚入っていた。
「でべて」
フミは何も言えず、をげた。
すると別の娘が鹸をつ置いた。
さらに誰かが拭いを持ってきた。
誰も「頑張れ」とは言わなかった。
ただ、しずつ物が増えていった。
のをる、フミは度だけ振り返った。
い煙突から、いつもと同じように黒い煙ががっていた。
自分が辞めても、は止まらない。
械も回り続ける。
それでも、自分ののでは確かに何かが変わっていた。
を追いされたフミは、そののうちにく所を失った。
故郷へ帰る汽賃はあった。
しかし帰れば、なぜ仕事を辞めたのか説しなければならない。
母を責めるつもりはない。
それでも「どうして黙って働けなかった」と言われることが怖かった。
フミは以見た本裁縫所をいし、を乗り継いで向かった。
戸をけた瞬、奥から千代がびしてきた。
「フミ!」
次の瞬、く抱きしめられた。
「何で来たの」
フミは泣きそうになった。
「辞めさせられた」
千代の表が変わった。
裁縫所の主である本タキは事を聞くと、そのだけ泊まっていくよう言ってくれた。
50歳を過ぎた柄な女性で、志乃とは昔の女奉公代からのりいだった。
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