"尋ね人が呼んだ母の旧姓" 第10話
だが恵子のことをってからは、し考え方が変わった。
秘密のには、を傷つけるために隠されたものだけではない。
話す言葉を見つけられないまま、い胸のに残ってしまうものもある。
文子にとって恵子は、そのようなだった。
あるの。
恵子が岡田へ遊びに来た。
茶のには、あの夜と同じようにラジオが置かれていた。
清は聞を読み、文子は縫い物をしていた。
夫は以と違い、もうラジオから流れる「尋ね」の名を聞き流すことができなくなっていた。
1の名の向こうには、1つのがある。
その名を待ち続けているがいる。
戦争が終わった瞬、全てが元通りになったわけではなかった。
を失ったがいた。
故郷を失ったがいた。
名や元を証するものをなくしたがいた。
族とれ、誰がきているのかも分からないまま本へ戻ったもいた。
血のつながりを確認する余裕さえないで、誰かのだけを頼りにき延びた子どももいた。
恵子は、その1だった。
そして文子は、そんな子どものを握った1だった。
ある、夫は母に尋ねたことがある。
「母さん、あの、どうして恵子さんを連れて帰ろうとったの?」
文子はしばらく考えた。
「子さんに頼まれたからじゃないの?」
「それもあるけどね」
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文子は縫い物のを止めた。
「泣いてる子のを握ったら、せなくなったのよ」
「それだけ?」
「それだけ」
文子は笑った。
特別な決があったわけではない。
自分が派なだったともっていない。
ただ、そのそこに1の子どもがいて、自分のを握っていた。
だからさなかった。
それだけだった。
恵子にとって、実母は子だった。
その事実は変わらない。
子は最まで娘を案じ、自分とれたも娘が文子としていることをっていた。
そして文子もまた、子の代わりになることはできなかった。
それでも、恵子は文子を「お母さん」と呼んだ。
血を分けた母親が1いれば、のでも必ず母親は1でなければならないわけではない。
自分を産んでくれた。
自分を育てた。
きるためにを握ってくれた。
のでは、その役割が1だけに収まらないこともある。
文子はい、自分が何者だったのか分からず苦しんでいた。
本当の母親でもない。
養母でもない。
結局、恵子を最まで育てることもできなかった。
だが、恵子自が答えをした。
「あのの私には、お母さんが2いた」
その言葉で、文子はようやく13の自分をし許すことができた。
ラジオから流れた旧姓は、岡田にきな混乱をもたらした。
清は妻を疑った。
夫は母に隠された娘がいるとった。
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族のには、それまでなかった沈黙がまれた。
しかし、その名をきっかけにしなければ、文子はおそらく過を話せないままだった。
恵子も、自分の本当の母親のことをらないままだった。
そして子が最まで娘の方をっていたことも、誰にも分からなかった。
戦争のでまれた1つの嘘が、13、族とは何なのかを岡田へ問いかけた。
「この子は私の娘です」
事実ではなかった。
けれど、を欺いて利益を得るための嘘でもなかった。
目ののさな命を、自分のそばからさないための言葉だった。
昭33の。
製のラジオから流れたたった1つの名によって、閉ざされていた過がいた。
そして岡田の者たちは初めてった。
族とは、戸籍だけで決まるものではない。
血のつながりだけでもない。
あの混乱ので、文子が何度も握り直したさな。
恵子が「お母さん」と呼びながらさなかった。
その記憶もまた、誰にも消すことのできない族の形だった。
それからが過ぎても、文子は々古いラジオを見ることがあった。
あの夜、突然自分の名が呼ばれた箱。
13隠し続けた過を、瞬で族のへ連れ戻した声。
怖かった。
けれど今では、文子はし違う気持ちでその夜をいしていた。
もし名を呼ばれなかったら、自分は、恵子に謝ることも、子の最をることもできなかった。
恵子の結婚式に座ることもなかった。
そして何より、
「お母さんって呼んでもいいですか」
という言葉を聞くこともなかった。
文子は、ラジオの表面についた埃を布で拭いた。
ちょうどその、玄関のから恵子の声がした。
「お母さん、いますか」
文子のが止まった。
今度は、あの夜のように顔を失うことはなかった。
「いるよ」
そう答えてちがった。
13、混乱ので失ったさなは、い回りの末に、もう度文子のところへ戻ってきていた。
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