"2本のさつま芋" 第3話
何度も聞いてきた言葉だった。
卓にししかべ物がない夜。
弟たちが「母ちゃんはべないの」と聞くと、澄子はいつも笑って答えていた。
「母ちゃんは腹減ってないから」
正夫は、ようやくを理解した。
母が腹を空かせていなかったわけではない。
自分たちにべさせるために、そう言っていただけだった。
正夫の腹は、ひどく減っていた。
胃の奥が縮むように痛かった。
それでも弟たちので何も言えなかった。
2本のさつま芋はすぐになくなった。
夜がくなっても、母は帰らなかった。
妹は泣き疲れて眠った。
弟たちも寄り添うようにして横になった。
正夫だけが眠れなかった。
暗い井を見ながら、のに学で習った言葉が何度も浮かんだ。
取引はいけません。
決まりを守りましょう。
正夫は、違ったことをしたとはいたくなかった。
それでも、初めて疑問がまれた。
正しいことをしたはずなのに。
どうしてこんなに苦しいのだろう。
翌朝。
目を覚ました正夫は、すぐに台所へった。
何かべるものが増えているはずはなかったが、それでも戸棚をけた。
昨と同じだった。
空だった。
米びつの底を覗いても、ほとんど何も残っていなかった。
弟たちはまだ眠っていた。
妹だけが起きてきて、正夫の横から戸棚を覗いた。
「朝ご飯は?」
正夫はすぐには答えられなかった。
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昨の芋はもうない。
母もいない。
「あとで何とかする」
そう言ったが、何をどうするのか自分にも分からなかった。
学へかなければならない。
だが弟たちを残していいのか。
母から「頼むね」と言われた言葉がかられなかった。
正夫は、昨までとは違うさをじていた。
母が毎していたことを、自分はほとんど何もらなかったのだとった。
朝起きると事がある。
学から帰れば何かしらべるものが置いてある。
が破れれば縫ってある。
弟がをせば母が仕事を休む。
当たりだとっていた。
そのつつが、母がいなくなっただけで止まった。
学へ向かう途、正夫は空腹をじていた。
夜からほとんど何もべていない。
歩くたびに腹のが空っぽなのが分かる。
それでも、友には言わなかった。
教へ入ると、いつもと同じ授業が始まった。
教師の声。
黒板へかれる文字。
教科をめくる音。
何も変わっていない。
正夫だけが、昨までと同じ所にいながら、別のところにいるような気がした。
昼になった。
周囲の徒がそれぞれべ物をす。
分な弁当を持って来られるばかりではなかったが、それでも何かしらへ入れるものがある。
正夫には何もなかった。
机に座っているのが嫌になり、教のへた。
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腹が鳴る。
誰かに聞かれるのが恥ずかしかった。
自分が警察へったことは誰にも話していない。
母がどうなっているのかも分からない。
だが、正夫のにはまださな期待が残っていた。
先なら、自分が正しいことをしたと分かってくれる。
特に担任の野先なら、きっとそう言ってくれるとった。
取引はいけないと教えたのは、先だったからだ。
放課。
正夫は急いでへ戻った。
玄関をけると、弟たちが待っていた。
「母ちゃん、まだ?」
「まだ」
それしか言えなかった。
べ物は依然としてなかった。
所へ借りにくことも瞬考えた。
しかし正夫には、それができなかった。
母が米で警察に調べられている。
そのがべ物を借りに来たとられたら、何を言われるだろう。
14歳の正夫には、そんなことまで気になった。
夕方。
玄関を叩く音がした。
母が帰ってきたとい、弟たちが斉にちがった。
しかしっていたのは、野先だった。
「正夫」
先はのを見た。
泣き腫らした妹。
母を待つ弟たち。
そして何も置かれていない台所。
野先の表がし変わった。
「お母さんは?」
正夫は真っすぐ先を見た。
今なら言えるとった。
そしてきっと、先は分かってくれる。
「警察にいます」
「どうして?」
正夫は答えた。
「僕が警察にらせました」
野先は目を見いた。
正夫は続けた。
「母ちゃんが米を買ったから」
先はしばらく何も言わなかった。
正夫はその沈黙がになった。
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