"2本のさつま芋" 第5話
現実の活には、同じような答えがどこにもなかった。
澄子がに戻らないは、さらに続いた。
正夫は学へきながら、のことも見なければならなかった。
妹と弟たちは何度も「母ちゃんはいつ帰るの」と聞いた。
正夫は、そのたびに「もうすぐだ」と答えた。
本当は、自分にも分からなかった。
朝起きるたび、まず玄関を見る。
夜のに母が帰ってきたのではないかと期待する。
だが扉は閉じたままだった。
台所も静かだった。
母がいるは、狭いのにいつも何かしら音があった。
包丁の音。
鍋の蓋がく音。
布をたたむ音。
弟を叱る声。
縫製所から持ち帰った糸や布を理する音。
それらがなくなると、はっていた以に広くじられた。
正夫は母が毎どれほどき続けていたのか、初めて気づいた。
べ物がりないも、母は子どもたちので困った顔をしなかった。
配のには、持ち帰ったものを何分に分けるか考えていた。
しでもく持たせるため、米へ芋やほかのものを混ぜていた。
それでもりなくなると、母は夜けに呂敷を抱えてていった。
正夫は、母がかける背を何度か見ていた。
あの、自分はっていた。
また買いしにくのか。
悪いことをしにくのか。
今になってえば、母は遊びにかけたのではなかった。
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族のべ物を探しにっていた。
それでも、正夫は自分のを完全に違いだったとはえなかった。
学で習ったことは嘘ではない。
取引が広がれば、決まりを守って配を待っているが損をする。
のある者だけがくべ物をに入れるようになれば、公平になる。
だから制度が必なのだ。
その説にも納得できた。
正夫は、そこでもう度分からなくなった。
母のように、子どもへべさせるために米を買うを許したらどうなるのか。
では、許さなかったらどうなるのか。
目のには、腹を空かせた弟がいる。
正夫は学で習った文章を、へ帰るたびいした。
のでは、言葉はきれいに並んでいた。
正しい。
違い。
法。
違反。
しかし実際の暮らしは、そのにあるものばかりだった。
ある晩、弟が布団ので言った。
「母ちゃん、警察に悪いことされたの?」
正夫は答えられなかった。
「母ちゃんが悪いことしたの?」
それにも答えられなかった。
昨までなら「した」と言えたはずだった。
だが今は、その言葉をにすると、母が族のために朝暗いうちから農へ向かう姿が浮かんだ。
「兄ちゃん?」
弟がもう度呼んだ。
正夫は布団をかけ直した。
「もう寝ろ」
それしか言えなかった。
自分が警察へらせたことを、弟たちにはまだ言っていなかった。
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言えばどんな顔をされるのか怖かった。
母を連れてったのが警察でも、その警察をへ呼んだのは自分だ。
その事実だけは変えられない。
夜が来るたび、正夫は玄関の物音に敏になった。
誰かがを歩くだけで起きがった。
で扉がわずかに鳴ると、母が帰ったのではないかとった。
そして数。
本当に玄関ので音が止まった。
戸がいた。
正夫はちがった。
そこに、澄子がっていた。
「母ちゃん」
正夫の声が、ったよりさくた。
弟たちは斉にった。
澄子へ抱きつき、袖をつかみ、次々に話しかける。
「どこってたの」
「いつ帰るのって聞いてた」
「今からいる?」
澄子は疲れた顔をしていた。
数よりし痩せて見えた。
それでも弟たちのを順番に撫でた。
「いるよ」
妹は泣きながら母へしがみついた。
正夫だけは、しれた所にっていた。
母が帰ってきたことは嬉しかった。
だが、づくことができなかった。
自分が何をしたかを伝えなければならない。
警察がへ来た、母は気づいていたのかもしれない。
それでも、自分のから言わなければならないとった。
弟たちがし落ち着いた頃、正夫は母のへた。
「母ちゃん」
澄子が顔をげた。
正夫は目をそらさなかった。
「俺が言ったんだ」
し声が震えた。
「警察に」
澄子は黙っていた。
正夫は続けた。
「母ちゃんが米買ってるって」
言い終わると、胸が苦しくなった。
澄子は驚かなかった。
ただ頷いた。
「ってる」
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