"2本のさつま芋" 第6話
正夫は目を見いた。
「ってたの?」
「警察で聞いたよ」
しばらく沈黙が続いた。
正夫は、次に何を言えばいいか分からなくなった。
謝らなければいけないとっていた。
しかし同に、自分は学で教わった通りにしただけだという気持ちも、まだ残っていた。
「ってないの?」
ようやく聞いた。
澄子は正夫を見つめた。
その顔には笑みはなかった。
「ってるよ」
正夫は顔をげた。
母が初めて、はっきりそう言った。
「すごくってる」
胸が締めつけられた。
それでも澄子は声を荒らげなかった。
正夫を叩くこともなかった。
しを置き、続けた。
「でも、あんたは悪いとったことを黙っていられなかったんだろ」
正夫の目から涙が落ちた。
自分でも止められなかった。
数、ずっとしていたものが気にてきた。
「ごめんなさい」
澄子はすぐには慰めなかった。
泣いている正夫を抱きしめもしなかった。
そのことが、かえって母が本当にっていることを伝えていた。
しばらくして、澄子は静かに言った。
「覚えておきなさい」
正夫は涙を拭った。
「決まりを守るのは事」
その言葉は、野先と同じだった。
「でもね」
澄子は台所の方を見た。
数、警察が調べた米袋が置かれていた所だった。
「決まりを作るは、お腹が空いていないこともあるんだよ」
正夫は何も言えなかった。
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母の言葉は、学で聞く言葉とは違っていた。
正しいとも、違っているとも言わなかった。
法律を破っていいとも言わなかった。
ただ、決まりの向こう側にいるのことを話していた。
「母ちゃんは、自分が悪くないとってるの?」
正夫は尋ねた。
澄子は首を振った。
「そんなことは言ってないよ」
「じゃあ、やっぱり悪いの?」
「決まりを破ったのは本当だよ」
「だったら……」
正夫は言葉を止めた。
澄子はそれ以説しなかった。
たぶん、説できなかったのだろう。
野先と同じだった。
だからといって、何にでも答えを持っているわけではない。
「べさせるものがなかった」
澄子はさく言った。
「それだけだよ」
正夫はその言葉を聞きながら、あの夜の2本のさつま芋をいした。
5歳の弟が聞いた。
「兄ちゃんのは?」
自分は答えた。
「俺は腹減ってない」
あの言をにして初めて、母が何度も同じことを言ってきた理由が分かった。
正夫は、もう度謝った。
「ごめんなさい」
澄子は今度も「いいよ」とは言わなかった。
「忘れなければいい」
それだけだった。
母が帰ってきたことで、の活はしずつ元へ戻った。
朝になれば澄子が起きる。
子どもたちの支度をし、自分も縫製所へる。
夕方には帰ってきて、ないべ物をどう分けるか考える。
それまでと同じように見えた。
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しかし正夫にとっては、以と同じではなかった。
卓にべ物が並ぶたび、それがどこから来たものなのかを考えるようになった。
配でもらったもの。
誰かから分けてもらったもの。
母が働いてに入れたもの。
そして、決まりを通さずにに入れたもの。
以なら、そのに簡単な線を引けた。
正しいものと、違ったもの。
今はできなかった。
だからといって、取引を良いことだとうようになったわけでもない。
学で先が説する内容にも、があると分かっていた。
みんなが好き勝にすれば制度は崩れる。
部のだけがくに入れれば、別の誰かが困る。
決まりは、いを守るためにも必だ。
その考えを正夫は捨てなかった。
ただ、決まりだけでは守れないもいることをった。
それが、自分のだった。
授業で取引について話がると、正夫は以のように真っすぐ黒板を見ることができなくなった。
先の言葉を疑っているわけではない。
しかし、その文字の向こうに母の顔が浮かんだ。
朝く呂敷を抱えてをる姿。
い米袋を持って帰ってくる姿。
弟たちがべるのを見ながら、自分は「腹が減っていない」と言う姿。
野先も、あのから正夫へ特別なことは言わなかった。
学では教師として、これまで通り決まりの切さを教えた。
正夫も、それを聞いた。
ただ2のには、あのの会話が残っていた。
「決まりを守っているが、いつも正しいとは限らない」
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