"2本のさつま芋" 第9話
玄関で泣く妹。
何も分からないまま母の袖をつかんでいた弟。
そして、最に自分へ向けられた言葉。
「弟たちを頼むね」
あの、澄子は正夫を責めなかった。
それは許したというではなかった。
へ戻ってきた、母ははっきり言った。
っている。
すごくっている。
その言葉も、正夫は忘れなかった。
母は正夫へ「あなたは正しかった」とは言わなかった。
「違っていた」と決めつけることもしなかった。
ただ、悪いとったことを黙っていられなかったのだろうと言った。
そしてつだけ、覚えておけと伝えた。
「決まりを守るのは事」
「でもね」
「決まりを作るは、お腹が空いていないこともあるんだよ」
14歳の正夫には、そのが分からなかった。
法律を作るが腹を空かせているかどうかと、決まりに何の関係があるのか。
正しいものは正しい。
悪いものは悪い。
それで分だとっていた。
だが、母がいなくなった夜。
戸棚に残っていたのは、さつま芋が2本だけだった。
正夫はそれを弟たちへ分けた。
5歳の弟が聞いた。
「兄ちゃんのは?」
正夫は答えた。
「俺は腹減ってない」
その言葉をにした瞬、自分が母と同じことを言っていると気づいた。
腹は減っていた。
むしろ、ひどく減っていた。
それでも幼い弟にべさせるため、自分は嘘をついた。
そのさな嘘が、母の暮らしを初めて正夫へ見せた。
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母もずっと同じだった。
自分がべる分を減らして、子どもへ回していた。
それでもりないから、始発にい列へ乗った。
着物や帯や布を呂敷に包み、くの農へ向かった。
そこで米や芋と交換して戻ってきた。
決まりに反していることはっていた。
警察に見つかれば調べられることもっていた。
それでもった。
で子どもが腹を空かせていたからだった。
正夫は、になってからも、その為を簡単に正しいとは言わなかった。
法律や制度が必であることをっていたからだ。
同じように、自分が警察へらせたを、完全に違っていたとも決められなかった。
14歳のは、学で教えられたことを信じた。
しい本を作るためには、みんなが決まりを守らなければならない。
その言葉を真剣に受け止めた。
自分だけ例にしてはいけないとった。
だから交番へった。
その真っすぐさ自体を、正夫はになって否定することができなかった。
ただ、りなかったものがあった。
母がなぜそうしたのかを考えること。
弟たちが何をべるのかを見ること。
決まりを守らせた、そのたちの暮らしがどうなるのか像すること。
14歳の自分には、それがなかった。
20く。
方自治体で働くようになった正夫は、活に困る母子庭の類をにして、再び同じ所へつことになった。
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規則は対象だった。
「規則ですから仕方ありません」
同僚の言葉は、違いではなかった。
だから正夫も、規則を破ろうとは言わなかった。
ただ、そこで終わりにしなかった。
「この規則で助けられないなら、別の方法を探しましょう」
若い職員が聞いた。
「そこまでしますか?」
正夫はし笑った。
「昔、やらなかったことがあるからね」
あの、自分は決まりを守らせるところまでしか考えなかった。
その、にべ物がなくなることまで考えなかった。
母がいなくなった、誰が弟たちへべさせるのかも考えなかった。
になった正夫は、その先まで考えようとした。
規則を変えることではない。
法律を無することでもない。
できる方法が残っていないか探す。
別の制度が使えないか確認する。
目ののが「対象」という3文字だけで消えてしまわないようにする。
それが、自分にできることだとった。
昭24の選択が正しかったのか、違っていたのか。
正夫は最まで答えをせなかった。
おそらく、母の澄子も答えを求めてはいなかった。
ただ覚えておきなさいと言った。
正夫は覚えていた。
交番の机。
警察官の制。
母の米袋。
空っぽの戸棚。
野先が置いていった芋。
そして、自分が弟たちへ分けた2本のさつま芋。
が流れ、町が変わり、卓の様子が変わっても、あの夜の空腹だけは消えなかった。
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