"帰った家に、知らない親子がいた" 第2話
列がホームをれ、族の姿が見えなくなってからも、正はしばらく窓のを見続けていた。
どうせ数かだ。
になるか。
遅くても来には帰れる。
そうっていた。
だから、列が完全に見えなくなった、ホームに残った母が初めて袖で顔を覆ったことを、正はらなかった。
疎先は野県のあいにある寺だった。
正たちは本堂に布団を並べ、何もの子どもが同じ根ので寝起きした。では自分の布団があり、母が枕元へ畳んだ着物を置いてくれていた正にとって、そこはまるで別世界だった。
朝は寺の鐘で目を覚ました。
まだ暗いうちから起こされ、顔を洗い、布団を畳む。では母に何度言われても布団をげなかった正が、数もすると誰よりく自分の寝を片づけるようになった。
事は麦のい飯と、根の葉、い噌汁。
最初の頃は、皆が文句を言った。
「なら卵がるのに」
「うちは魚があった」
「噌汁がい」
しかし腹が減れば何でもべた。
畑仕事を伝ったには、のに落ちているさな芋まで拾い、を払って持ち帰った。先に見つかって叱られても、翌になればまた誰かが拾った。
正も最初は京が恋しかった。
寺の夜は静かすぎた。
川なら、のをが歩く音がする。
くでの音が聞こえる。
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父が遅く帰れば、玄関をける音がする。
母は寝るに台所を片づけ、器の触れう音をてる。
ここには、それがなかった。
代わりに聞こえるのは虫の声と、誰かの寝息と、々響く寝言だけだった。
「母ちゃん……」
夜、隣の布団から声が聞こえることもあった。
昼はがっていた子が、布団のでは泣いていた。
正は自分だけは泣くまいとっていた。
その気持ちを支えたのが、京から届く葉だった。
最初の頃は、ほとんど毎週のように母の字が届いた。
「正へ。
元気にしていますか。
お父さんは今も仕事です。
隣のタミちゃんのお母さんが、正くんは元気かと言っていました。
の朝顔は今も咲きました」
正は何度も読み返した。
の様子が目に浮かんだ。
玄関の横に置いた鉢。
になると毎朝咲く朝顔。
母がをやりながら「今はよく咲く」と言っていた姿。
葉を読むと、のにいてもとつながっている気がした。
正も返事をいた。
「お母さんへ。
寺の裏で栗を拾いました。
同じ部の田が寝言を言います。
昨の噌汁には油揚げが入っていました。
みんなびました」
くことがなくなると、必ず最に同じ文をつけた。
「いつ帰れますか」
母の返事には、その質問へのはっきりした答えはなかった。
「もうしの辛抱です」
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「先の言うことを聞いて待っていなさい」
「元気で帰ってきてくれれば、それでいいです」
正はし満だったが、くは考えなかった。
戦争はが始めたものだ。
終わる期もがっている。
子どもの自分は、それまで待てばいい。
そうっていた。
が過ぎ、になった。
寺の廊はえ、朝起きると吐く息がかった。
布団からるのが嫌で、子どもたちは先が来るぎりぎりまで互いに押しっていた。
それでも正は元気だった。
京からの葉も続いていた。
父についてかれることはいつもかった。
「お父さんは今も仕事へきました」
「お父さんが、正はちゃんと勉しているかと言っています」
々、父自がだけくこともあった。
「腹を減らしてもしろ。帰ってきたら何かうまいものをわせてやる」
その文を見ると、正は友達に自した。
「うちの父ちゃん、帰ったら何かわせてくれるって」
「何?」
「らない。でも肉かもしれない」
「肉なんてあるわけないだろ」
そんな話をして笑った。
昭20に入ると、状況が変わった。
京から届く郵便が目に見えて減り始めた。
母からの葉も、毎週だったものが2週に1度になり、やがて3週待っても届かなくなった。
「郵便が遅れているんだ」
先はそう説した。
「京は空襲が増えているからな」
正たちは、その言葉に反応した。
「うちの町は丈夫ですか」
「川は?」
「浅は?」
「本所は?」
先はすぐには答えなかった。
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