"帰った家に、知らない親子がいた" 第7話
父も母もいない。
その、らない母娘が暮らしている。
「先」
暗い部ので、正が声をした。
「起きてますか」
「起きてるよ」
先はすぐ答えた。
「、あそこにみます」
し沈黙があった。
「正」
「菊さんがていくって言ったから」
「その話なんだが」
先は布団から起きがった。
「今、町会のにも確認した」
正も体を起こした。
「何を?」
「おのがあった所についてだ」
先は言葉を選ぶように話した。
「佐野がんでいたは、お父さんの持ちじゃなかったそうだ」
正はが分からなかった。
「はうちのだよ」
「借りていただった」
「でも、ずっとんでた」
「んでいた。でもも建物も、佐野の所ではなかった」
正は黙った。
そんなことを考えたことがなかった。
はだった。
父が帰ってくる所。
母が炊事をする所。
自分が寝る所。
誰の名義かなど、11歳の正がるはずもなかった。
「主だったたちも、空襲のは消息が分からないらしい」
先は続けた。
「だから今、誰にあのを使う権利があるのか、すぐには決められない」
「じゃあ、僕は帰れないの?」
「そういうじゃない」
「同じじゃないか」
正は布団を握った。
「所まで覚えてたのに」
先は何も言わなかった。
さらに問題があった。
正は11歳。
父母の消息は。
くにすぐ引き取れる親戚も見つかっていない。
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「しばらく施設へこう」
先は言った。
正はすぐ首を振った。
「嫌です」
「でも、では暮らせない」
「ここにいます」
「誰と?」
その質問に答えられなかった。
菊はていく。
千鶴もいなくなる。
そうなれば、あのバラックに1でむことになる。
事は。
学は。
が来たら。
考えれば分かる。
でも認めたくなかった。
昨まで、に帰れば全部元に戻るとっていた。
父がいる。
母がいる。
茶のがある。
押し入れに自分の布団がある。
夕方になれば母が「を洗いなさい」と言う。
夜になれば父が帰ってくる。
それがだとっていた。
所さえ覚えていれば、そこへ戻れるとっていた。
しかし所は残っていた。
なのにはなかった。
翌朝。
正は1で焼け跡へ向かった。
バラックのに来ると、戸がいていた。
菊が荷物をまとめている。
鍋。
布団。
わずかな着物。
千鶴もさな呂敷へ自分の物を包んでいた。
正はを止めた。
「どこくの」
菊が振り返った。
「町会のが、別の所を探してくれるって」
「今?」
「できるだけくた方がいいでしょう」
「でも」
正はのを見た。
昨まで、あれほど腹がった所だった。
自分のではない。
父が建てたではない。
母が料理をした台所もない。
ただ焼け跡に板を敷き、トタンを乗せただけのだった。
それでもそこには、母が最に残した缶があった。
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表札があった。
何より、母を最に見たがいた。
千鶴が呂敷を抱えてへてきた。
正と目がった。
昨、正が鳴ったには菊の袖を握っていた女だった。
千鶴は何も言わなかった。
その顔を見て、正は初めて考えた。
この子もをなくした。
この子のも焼けた。
父親も帰ってきていない。
この子にとっても、ここしかなかった。
正は喉の奥に何かが詰まったような気がした。
「……待って」
菊が振り返った。
正はなかなか次の言葉を言えなかった。
昨、自分で「ていけ」と言った。
今さら何と言えばいいのか分からない。
それでも言った。
「ていかなくていい」
菊は驚いた。
「でも」
「僕も」
正は俯いた。
「僕も、ここにいていい?」
菊はすぐには答えなかった。
しばらくして、さく頷いた。
「狭いよ」
「いい」
「ご飯もりない」
「疎先もりなかった」
千鶴が、初めてし笑った。
そのから3の暮らしが始まった。
戦争が終わったからといって、暮らしが元へ戻るわけではなかった。
配だけでは腹が満たせない。
べ物をに入れるため、菊は着物やに残ったわずかな品を持って農へかけた。
正も伝った。
休になるときな袋を背負い、菊のを歩いた。
帰りには芋や野菜が入っていた。
「い」
「男の子でしょう」
「11歳だよ」
「子どもじゃないって言ってたじゃない」
菊にそう返され、正は黙った。
母と同じことを言われた気がして、し腹がった。
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