"帰った家に、知らない親子がいた" 第8話
でも嫌ではなかった。
学も元通りではなかった。
焼け残った舎を使い、教がりないにはを分けた。
机も子もりない。
教科も分ではない。
それでも正は学へ通った。
夜になると、バラックの隙からたいが入った。
は布団へ3で固まるようにして眠った。
がれば根のあちこちからが垂れた。
鍋や茶碗を置いて漏りを受けた。
喧嘩もした。
千鶴が正の鉛を勝に使った。
正がる。
菊が「貸してあげなさい」と言う。
「僕のなのに」
「千鶴はまださいんだから」
「何でもさいで済ませるなよ」
正が戸をく閉めてへることもあった。
それでも夕方になれば帰った。
菊は正を「息子」とは呼ばなかった。
正も菊を「母さん」と呼ばなかった。
「菊さん」
最初はずっとそう呼んでいた。
千鶴は正を「正兄ちゃん」と呼ぶようになった。
3は族ではなかった。
なくとも、最初は。
正は両親を探し続けた。
者の名簿があると聞けば見にった。
帰還者が集まる所へもを運んだ。
父の名。
母の名。
佐野という名字を見つけるたび胸がねた。
しかし違うだった。
ある、くの救護所に同じ名の女性がいたと聞き、正は半かけて向かった。
「佐野です」
受付で言った。
「佐野の女のがいるって」
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確認してもらった。
齢が違った。
別だった。
帰り、正は何も言わず歩いた。
へ戻ると、菊が飯をよそった。
「どうだった」
「違った」
それだけ言った。
菊も余計なことは聞かなかった。
夜。
千鶴が寝た、正は突然言った。
「母ちゃん、んだのかな」
菊はを止めた。
縫い物をしていた。
「分からない」
「父ちゃんも?」
「分からない」
正は膝を抱えた。
「んだって言ってくれた方が楽なんだけど」
菊が正を見る。
「待たなくて済むから」
しばらく沈黙が続いた。
「分からないものを、分かったことにはできないよ」
菊は静かに言った。
正はその言葉が嫌いだった。
期待を捨てろとも言わない。
きているとも言わない。
ただ待ち続けろと言われているように聞こえた。
「そんなの、ずるいよ」
「そうかもしれない」
「じゃあ、母ちゃんがんだとう?」
「私は決められない」
正は腹をて、布団へ潜り込んだ。
それから何も、その言葉をいすたび嫌な気持ちになった。
けれどが経つにつれて、しずつが変わっていった。
分からないものを、分かったことにはできない。
だからは、分からないままきていかなければならない。
正は、そのことを戦の暮らしので覚えていった。
数が過ぎた。
京にはしずつが戻った。
焼け跡にはしい建物が増え、もえられていった。
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正の背も伸びた。
学をる頃には、菊よりずっとくなっていた。
を決める、正はの見習いになるを選んだ。
特別な理由を誰かに説したことはなかった。
働かなければならなかった。
それが番きい。
しかし初めて現へた、何もないに柱がつのを見て、正は胸の奥に妙な覚を覚えた。
朝には何もなかった所へ、夕方にはの形ができている。
柱をてる。
梁を渡す。
根を架ける。
壁を作る。
そのつつが、自分の失ったものを逆からたどっているようだった。
「ぼさっとするな!」
親方に鳴られた。
「はい!」
正は慌てて材を運んだ。
仕事は厳しかった。
に豆ができ、潰れた。
の朝は指がかなかった。
失敗すれば鳴られた。
それでもが来がる瞬が好きだった。
むが初めてへ入る。
「ここが台所ね」
「この部は子ども部にしよう」
そんな会話を聞くと、正は黙って柱を見た。
自分にも、かつてそういう所があった。
その記憶だけは消えていなかった。
昭25。
正が16歳になった頃。
町の区画理がみ、菊たちが暮らしていたバラックも取り壊されることになった。
しいを通すためだった。
役所のが説に来た。
「この帯は理されます」
図面が広げられた。
正は黙って見た。
かつて父と母のがあった所。
空襲で焼けた所。
菊と千鶴がバラックを建てた所。
そこへが通る。
昔の形は、完全になくなる。
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