みかん小説
本棚

"12年前も、彼が犯人だった" 第10話

佐々は休憩に、その画面を直へ見せた。

「よかったですね」

「まあ」

素っ気ない返事だったが、スマートフォンを持つは、わずかに震えていた。

事件から1が過ぎ、フーズの仕組みはきく変わった。

の現回収は、ドライバー1で処理しない。回収額、領収、現を担当ドライバーと経理がに確認し、個銭の預かりは原則として禁止した。

故障していた防犯カメラはすべて交換され、入退館記録も定期に確認されるようになった。

配送量、休憩、追加ルートについても記録し、特定の社員へ過度な負担が集していないか、毎週の会議で確認している。

より面倒になりましたね」

岸本は入力表をにして、折ぼやいた。

は決まって同じように返した。

「面倒なくらいでちょうどいいんだよ」

仕事を簡単に見せようとすれば、どこかの負担を記録から消さなければならない。その見えなくなった負担は、最には最も断りにくいへ集する。

12の佐々がそうだった。

宮本は会社を退職した。ただし退職までの半、過の事故調査、森川への説、佐々との補償協議に関わり続けた。

、宮本は古い配送表を持って直のもとへ来た。

「これは処分してもいい類なんだが」

「12のものですか?」

広告

「ああ。おが持っていてくれ」

「個で持つものではないでしょう」

は古い配送表を受け取ると、会社の庫へ正式な記録として保管した。個の机や鍵付きの棚ではなく、必に確認できる所である。

「忘れない方がいいですから」

宮本はし寂しそうに笑った。

「本当に成したな、瀬」

今度の言葉には、以のような圧力はなかった。

森川キヨは今も配サービスを利用している。宮本への1万円の返は、もうっていない。

宮本から「返さなくていい」と改めて伝えられた、森川は満そうにしていた。

から借りたままみたいで嫌なんだけどね」

たまたま配へ同していた直は、し考えてから言った。

「それなら、別の形で返したらどうですか」

「どんな形?」

「毎週、届けに来たへ『ありがとう』と言ってください」

森川は声をげて笑った。

「そんなのでいいの? すぎない?」

「毎週なら、結構な額になりますよ」

それから森川は、弁当を受け取るたび、必ず配送員へ礼を言うようになった。

「いつもありがとう」

最初は照れていた岸本も、今では笑って答える。

「こちらこそ、ありがとうございます」

あるの朝、再び庫内の現と帳簿がわないことが判した。

今度の差額は5,000円だった。

事務所に緊張がり、岸本がきかけた。

「誰かが――」

しかし途で言葉を止め、直を見た。

広告

なら、誰が庫へ触れたのか、誰が怪しいのかを最初に考えていただろう。直は配表を置き、事務所にいる全員へ声をかけた。

「まず記録を確認しよう。誰かを疑うのは、そのだ」

回収表、領収、現、入力記録を1つずつ照した。

20分、原因が見つかった。

理恵が5,000円を翌分にもしていたのだ。

「すみません。私の入力ミスです」

理恵がげると、直さく笑った。

「よかった」

「何がですか?」

「犯がいなくて」

事務所のあちこちから堵の笑いが起こり、理恵も苦笑した。

そのの夜、直は最に会社をた。駐にはたいが吹き、事務所の窓からが漏れている。

44歳。勤続24

く働いた分、会社のことをよくっているつもりだった。しかし同に、見て見ぬふりをしたこともかった。

は、自分を悪だといながら黙るわけではない。

会社を守るため。族を養うため。揉めたくないから。今さら過を掘り返しても仕方がないから。

もっともらしい理由を1つずつね、しずつ黙っていく。

その結果、最には最も言い返しにくいへ、すべての責任が集まる。

12も佐々だった。1も、また佐々が犯にされかけた。

そして直も、それを止めるのが遅かった。

だから、今何かが起きたには、2つのことを忘れないようにしようとった。

最も怪しく見えるを、最初から犯にしない。

そして、最も信頼しているを、最まで疑わないままにもしない。

どちらも同じくらい危険だった。

スマートフォンが鳴った。岸本からのメッセージだった。

瀬さん、の森川さんの配達は俺がきます。領収も必ず確認します》

し笑い、《よろしく》と返した。

へ乗り込もうとした、会社の廊に清掃の佐々が見えた。モップを持って歩いていた佐々も、窓越しに直へ気づいた。

佐々が軽くげた。

も、同じようにげた。

特別な解でも、な友でもない。ただ同じ所で、それぞれの仕事をして、普通に帰る。

12にはできなかったことが、今はできている。

のエンジンをかけた。

も朝が来れば、配送があり、集があり、帳簿の確認がある。誰かが失敗し、関係の問題も起きるだろう。

それでも今度は、誰か1へすべてを押しつけて終わらせない。

なくとも、自分だけはそうしない。

それが44歳になった直が、24働いた会社でようやく覚えた、最も切な確認だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: