"米はあるのに、田を売った" 第9話
田を枚失うことで、残りを守った。
源蔵が当言ったその言葉は、何も経ってようやく現実になった。
庄吉は父へ言った。
「お父ちゃんが売ったんじゃないよ」
源蔵は眉を寄せた。
「何だ」
「を残すために、田に代わりをしてもらったんだ」
源蔵は笑った。
「うまいこと言うようになったな」
「松井さんの帳面ばっかり見てたからな」
父子は並んで歩いた。
夕の、売った田にも、残った田にも、同じように稲穂が揺れていた。
さらに数が過ぎた。
になると、源蔵のの蔵には今も米俵が積まれた。ただ昔と違うのは、誰もそれだけを見て「今はだ」とは言わなくなったことだった。
庄吉は収穫量を確認すると、次に帳面をいた。族がべる分、来の種籾、税に必な、肥料代、農具の費用を順番にき、それから今どれだけ売るかを決める。町の値段が悪ければ部を残し、良ければしく売るという判断もするようになった。
源蔵は、その様子を黙って見ていた。
昔なら、米俵に数字をく息子を「商みたいだ」と嫌っただろう。
今では自分の方から尋ねる。
「今はいくらで売れそうだ」
庄吉は最初、その質問を聞くたびし笑った。
だが源蔵が真面目な顔をしているため、やがて普通に答えるようになった。
「今はしい。もうし待った方がいいかもしれない」
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「税までににうか」
「丈夫だ。今は現を残してある」
源蔵は頷いた。
「なら、任せる」
その言葉は、庄吉にとって田を譲られるより嬉しいものだった。
父が、自分とは違う百姓のやり方を認めたということだからである。
お糸はその、町の仕で働き続けた。やがてで簡単な仕事を任されるようになり、へ送るには「いつか自分のを持ちたい」とくようになった。源蔵はもう「百姓の娘が何になる」とは言わず、返事には〈はしでも貯めておけ〉といた。
太も成し、農閑期には町へ働きにるようになった。田を継ぐのは庄吉がとなり、兄弟全員が同じに縛られる必はないという考えが、いつのにかので当たりになっていた。
あるの稲刈りが終わった夕方、源蔵は蔵のに座っていた。
米俵が何段も積まれている。
若い頃の源蔵なら、その景だけで満した。
米がある。
だからを越せる。
それが百姓のだった。
だが今の源蔵は、蔵を見たで庄吉の帳面にも目をやった。
「税のは」
「もう取ってある」
「肥料代は」
「来分まで丈夫」
「お糸から送ってきたは使ったか」
「使ってない。本のために残してあるよ」
源蔵はそこでようやくしたように息を吐いた。
昔なら、そんな会話をするが来るとはわなかった。
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には値段がついた。
税は米ではなくで納めるようになった。
自分が作った米にも、そのの町の都で違う値段がつく。
それまで源蔵がきてきた世界では、良い米をたくさん作ればを守れると信じることができた。
しかししい代では、それだけではりなかった。
作ること。
売ること。
を残すこと。
税を払うこと。
そしてには、田をれて働くことまで考えなければならない。
源蔵はその変化をんだわけではない。
最まで、昔の方が分かりやすかったとっていた。
それでもつだけ分かることがあった。
世のが変わった、昔のやり方を守り続けることだけが、を守ることではない。
自分は田を枚失った。
娘は町へた。
息子は商から相を学んだ。
若い頃の源蔵なら、そのどれも「百姓らしくない」と嫌っただろう。
しかし、その変化があったからこそ、残った田では今も稲が育っている。
翌朝、庄吉は町へ米価を見にく支度をしていた。
源蔵は玄関先でを直す息子へ声をかけた。
「庄吉」
「何だ」
「今の米、かったら急いで売るな」
庄吉は顔をげた。
「分かってる」
「みたいにまで持てるなら、その方がいい」
庄吉はしだけ笑った。
「お父ちゃん、すっかり相を見る百姓になったな」
源蔵はむっとした顔をした。
「俺は百姓だ。
相師じゃない」
「じゃあ、どうして値段を気にするんだよ」
源蔵は瞬答えに詰まり、やがて自分でもおかしくなったように笑った。
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