"米蔵を開けた娘" 第1話
正78。
阪の町は、朝から息苦しいほどの暑さに包まれていた。軒先に打ちをしても、乾いた面はたちまちを吸い込み、通りを歩く々の額には朝くから汗が浮かんでいた。
けれど、々を苛たせていたのは暑さだけではなかった。
米だった。
「またがったんですか」
がいてもなく、1の女がのでを止めた。格子の横に貼りされた米の値段を見げ、信じられないという顔でのを振り返る。
「昨よりいやないですか」
阪ので米を営むの主、徳蔵は、帳に腰をろしたまま顔をげた。元には算盤と帳面があり、その横には朝に届いた仕入れの伝票が何枚もねてある。
「こっちもう仕入れてるんです。うちが勝にげてるんやありません」
声を荒げたわけではなかった。
だが、毎のように同じことを聞かれ、同じ説を繰り返しているせいか、徳蔵の調には疲れがにじんでいた。
女は財布をいた。
「でも、子どもに何べさせろ言うんです」
掌にてきたのは、わずかな銭だった。
いつもなら買う客だった。ところがこのは、財布のを何度数えてもりず、しばらく黙ったで、「半分でええです」と言った。
番が米を量る、女は何も話さなかった。
さくなった米袋を受け取ると、何度も値札を振り返りながらをていった。
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そのろ姿を、の奥から19歳の千代が見ていた。
ここ数か、では同じような景が毎のように繰り返されていた。
昨まで買っていたがになる。
がになる。
米だけではりず、麦を混ぜるようになるも増えた。粥にしてを増やし、ない米で族全員の腹を満たそうとするもあった。
それでもりない。
「今はだけ頼むわ」
「来週にはしがるやろか」
「のまで、これで持たせなあかんねん」
へ来る客のからるのは、そんな言葉ばかりだった。
町では次第に、米そのものへ向けられる目も厳しくなっていた。
「米が蔵に米を隠しとるらしい」
「値段がもっとがるまでさんつもりや」
「持ちは腹いっぱいべて、貧乏には売らへんのや」
誰が言い始めたのか分からない噂が、からへ、井戸端からへと広がっていった。
千代には、その言葉を完全に否定することができなかった。
の裏には蔵があった。
分い扉の向こうには、何俵もの米が積まれている。
朝、先で「米が買えない」と嘆いていた女たちのすぐろに、それだけの米があるのだ。
千代には、それがどうしても議だった。
父は毎、帳面ばかり見ていた。
米がいくらで入ったのか。
どの問から何俵仕入れたのか。
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の値段がどうなるのか。
客が困っているのをらないわけではない。それでも徳蔵は、番に蔵からす量を細かく指示し、それ以は決して売ろうとしなかった。
あるの昼過ぎ。
がし静かになると、千代は裏庭へた。
蔵のには、古びたきな錠がぶらがっている。
扉の隙からを見ることはできない。
それでも千代には、壁の向こうに積みがっている米俵の姿がはっきりい浮かんだ。
今朝の女は半分しか買えなかった。
昨来た老婆は、値段を聞いただけで帰った。
そののには、幼い子どもを3連れた母親が「だけ」と言った。
千代は蔵の扉にを触れた。
ひんやりしたの触が掌に残った。
その夜。
閉も帳に残り、算盤を弾いていた父へ、千代は初めて正面から尋ねた。
「お父ちゃん」
徳蔵は算盤から目をげなかった。
「なんや」
「蔵の米、なんで売らへんの」
算盤の玉を弾く音が、そこで止まった。
徳蔵はすぐには答えなかった。
帳面のに置いていた指をゆっくりし、それから娘の顔を見た。
「売らんとは言うてない」
「でも今、佐吉さんにすな言うたやろ」
「す量を決めただけや」
「まだ蔵にはいっぱいあるやん」
千代の声には、自分でも抑えきれない苛ちが混じった。
徳蔵はしばらく娘を見つめていたが、やがて帳面を閉じる代わりに、千代の方へ押しした。
「見てみ」
「何を?」
「数字や」
仕入れ値。
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