"米蔵を開けた娘" 第3話
「米をくしろ」
「買い占めるな」
「蔵の米をせ」
最初は数だった。
それが10になり、20になった。
のにも、朝から女たちが並ぶようになった。
いつもの客ばかりではない。
別のから来た者。
しれた町から噂を聞いてやって来た者。
誰もが同じことを言った。
「米を売ってほしい」
朝、をけるとすぐ20ほどが列を作った。
昼には40くになった。
夕方になる頃には、列は隣ののまで伸び、を歩くが通れないほどになっていた。
番たちは休むもなく米を量った。
僧たちは倉庫とを何度も往復した。
千代も帳を伝ったが、米を渡すたび、列がしもくならないことに気づいた。
1帰れば、また2来る。
そんな状態だった。
「あとどれくらいある」
徳蔵は何度も庫を確認させた。
「にしてる分、残りわずかです」
佐吉が答える。
「蔵からは?」
「今はもうさん」
「でもにまだ……」
「さん言うたらさん」
徳蔵の声には迷いがなかった。
その言葉が、のまで聞こえたのかもしれない。
「蔵に米あるんやろ!」
誰かが叫んだ。
別の声が続いた。
「して!」
「値がり待ってんのってるで!」
「こっちは子どもにべさせるもんがないんや!」
格子戸の向こうから、次々と声がんできた。
千代は父を見た。
徳蔵は唇を固く結び、を見ていた。
「今はもう閉める」
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「え?」
千代はを疑った。
「まだこんなに並んでるよ」
「分かってる」
「今閉めたら余計るやん」
「分かってる言うてるやろ」
「じゃあ売ろうよ」
徳蔵は答えず、佐吉へ言った。
「格子戸閉めろ」
佐吉も戸惑った。
「旦さん、ほんまに?」
「閉めるんや」
の格子戸がゆっくり閉じられた。
その瞬、から号ががった。
「何で閉めんねん!」
「まだぃ暮れてへんやろ!」
「米せ!」
格子戸を叩く音が響く。
千代はその音を聞きながら、胸が締めつけられるのをじた。
「お父ちゃん」
「何や」
「売ろう」
「今は駄目や」
「何で?」
徳蔵は堪えていたものが切れたように振り返った。
「この数にけたら、米が晩でなくなる!」
のが静まり返った。
では、まだ戸を叩く音が続いている。
千代も引かなかった。
「なくなったら仕入れればいいやん」
「仕入れられへんから言うてるんや!」
徳蔵の鳴り声がに響いた。
僧たちがを止めた。
女も奥から顔をした。
徳蔵は荒い息を吐いた。
「問も値ぇげとる。今度から現で払え言うとるところもある」
「……」
「ここにある米まで全部なくしたら、からは空っぽや」
徳蔵は帳を握りしめた。
「米に米がなかったら、どうやってけんねん」
千代は言葉を失った。
父の額には汗が浮かんでいた。
暑さのせいだけではない。
から聞こえる声を、徳蔵も恐れている。
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千代はその、初めて気づいた。
父も余裕があるわけではなかった。
蔵に何俵もの米があるからといって、が裕福で全なわけではない。
それでも。
格子のから子どもの泣き声が聞こえた。
「お母ちゃん、お腹すいた」
千代は目を閉じた。
をもけること。
今の夕飯をべること。
どちらが切なのか。
答えはなかった。
しばらくして、の騒ぎはし落ち着いた。
徳蔵は町内の米商たちと話しうためにかけることになった。
「佐吉、頼むぞ」
「はい」
徳蔵は千代を見ることなくをた。
格子戸のでは、まだ何もの女たちが残っている。
その姿を見送った、千代はゆっくりとの奥へ向かった。
父が鍵をしまっている所を、千代はっていた。
鍵をに取った瞬、千代の指が震えた。
子どもの頃から何度も見てきた蔵の鍵だった。しかし父の許しなく持ちしたことなど、度もない。
裏庭へると、番の佐吉が気づいた。
「お嬢さん」
千代はを止めなかった。
「その鍵……何するんです」
「蔵ける」
佐吉の顔が変わった。
「ちょ、ちょっと待ってください」
千代は蔵のまでった。
「売る」
「何を言うてるんです」
「米を売る」
佐吉は慌てて千代のへ回り込んだ。
「旦さんが帰ってきたら、えらいことになりますよ」
「分かってる」
「分かってへんでしょう。
旦さん、今はすな言うててったんですよ」
「でもにが待ってる」
「せやからって、お嬢さんが勝に決めることやない」
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