"米蔵を開けた娘" 第5話
誰かの肘がに当たった。
米を量っていたのがに落ちた。
の米がい粒となって散らばった。
瞬だけ、々の線がへ集まった。
その、ろから押された女がよろめいた。
「危ない!」
千代が声をげる。
混乱はもう、千代1の声で止められるものではなかった。
蔵をければ、困っているに順番に米を売れる。
千代はそうっていた。
に決めれば、皆にき渡る。
しくすれば、今べるものに困っている庭を助けられる。
それだけのことだとっていた。
だが、米を求めているのはの常連客だけではない。
町に、べる米に困っているがいる。
がく売るとれば、何百でも集まってくる。
その数を、千代は考えていなかった。
「閉めた方がええ!」
佐吉が叫んだ。
「でも、まだ並んでる!」
「このままやったら蔵に入られます!」
そのだった。
のから、聞き慣れた声が響いた。
「何してる!」
千代の体が凍りついた。
のをかき分けるように、徳蔵が入ってきた。
米商仲との話しいから戻った父だった。
徳蔵は内を見た。
いた蔵。
そこから運びされた米俵。
面に散らばった米粒。
押しう々。
その真んでち尽くす娘。
徳蔵の顔から、見るに血の気が引いていった。
「千代!」
娘が振り返る。
「お父ちゃん、聞いて」
徳蔵は答えなかった。
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「最初はちゃんと並んでくれててん。で――」
「佐吉」
徳蔵は娘の言葉を遮った。
「蔵閉めろ」
「でも旦さん、この数では……」
「閉めろ!」
い声だった。
鳴るよりも怖かった。
佐吉はすぐ僧たちへ図した。
徳蔵はのへた。
「お父ちゃん!」
千代が追いかける。
だが、徳蔵は振り返らず、そのまま通りをりした。
どこへ向かっているのか。
千代にはすぐ分かった。
くの駐所だった。
「まさか……」
胸がたくなった。
父は警察を呼びにった。
自分が蔵をけたから。
の米を勝に売ったから。
千代のには、周囲の号がく聞こえ始めていた。
しばらくして、巡査たちの姿が通りの向こうに現れた。
巡査が数、徳蔵と緒にへ戻ってきた。
制姿が見えた瞬、々のにしいざわめきが広がった。
「警察や」
「米が警察呼びよった!」
「自分らが米隠しといて何やねん!」
りの矛先が、気に徳蔵へ向かった。
巡査の1がへた。
「押さないでください! いったん解散しなさい!」
「米買いに来ただけや!」
「何で解散せなあかんねん!」
「売る言うたんはの娘やぞ!」
千代は父のところへ駆け寄った。
「私を捕まえさせるの?」
徳蔵は娘を見た。
しかし答えなかった。
「お父ちゃん」
「今はがってろ」
「私が勝にけたから?」
「千代!」
「私が悪いなら私に言えばええやん!」
徳蔵は何か言おうとした。
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その、ろできな声ががった。
「押すな!」
の波が気にいた。
巡査たちがへて、へ入ろうとする者を押し戻す。
誰かが肩をぶつけられた。
別の誰かが鳴り返した。
その混乱ので、1の女がを取られて転んだ。
「きゃっ!」
背にいた赤ん坊が激しく泣きす。
「赤ちゃんが!」
千代が駆け寄ろうとした。
だが、目のをが横切りめない。
別の男が腹をて、先に置いてあった空の箱を蹴った。
箱が倒れ、乾いたきな音をてた。
それまで「米を売れ」と叫んでいた々が、瞬だけ黙った。
千代はその、初めて本当の恐怖をじた。
これはもう、自分が考えていた「困っているに米を売る」という話ではない。
このままが押し寄せれば、が壊れる。
子どもが踏まれるかもしれない。
誰かがきなけがをするかもしれない。
いた蔵へ数が斉に入れば、米俵が崩れる能性だってある。
「がって!」
千代も叫んだ。
「お願いします! 押さんといて!」
自分の声が震えているのが分かった。
巡査たちはしずつ々を通りへ押し戻した。
「今は営業を終わります!」
徳蔵が声で告げた。
「米はもう売りません!」
「ふざけるな!」
号ががる。
しかし巡査がに入り、の格子戸はようやく閉められた。
々はすぐには帰らなかった。
しばらく通りに残り、「米をせ」
と声をげる者もいた。
それでもが落ちる頃には、しずつ散っていった。
のには、荒れた跡だけが残った。
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