"米蔵を開けた娘" 第6話
倒れた。
踏まれた米袋。
いっぱいに散らばった米粒。
千代はしゃがみ込み、粒ずつ拾い始めた。
米粒でも無駄にするな。
子どもの頃から父に言われてきた言葉だった。
佐吉たちも黙って片づけを始めた。
誰も千代を責めなかった。
それがかえって苦しかった。
夜になっても、徳蔵は帳からかなかった。
千代は拾った米をさな器へ集めた。
は静かになっていた。
昼の騒ぎが嘘のようだった。
しばらくして、千代がをいた。
「警察呼ぶほどのことやった?」
徳蔵は帳面を見たまま答えた。
「呼ばんかったら、どうなってた」
「私、ちゃんとずつ売ってた」
「最初はな」
父の返事はかった。
「途からも止めようとはしてた」
「止まったか?」
千代は答えられなかった。
徳蔵が顔をげた。
「おは今、蔵をけた」
「うん」
「また同じだけが来たら、もけるんか」
千代は唇を噛んだ。
「米がなくなるまで売るんか」
「……」
「全部なくなった次のに来たには、何て言うんや」
千代のに、昨の男の子の顔が浮かんだ。
今売って助かったがいる。
だが来るはどうする。
は。
1週は。
徳蔵は今売った米の量を帳面にき込み、しばらく算盤を弾いた。
そのが止まった。
「この値段やったら赤字や」
「でもべられへんがいる」
「ってる」
「ってるのに!」
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千代はちがった。
「米やろ!」
徳蔵もちがった。
「米やから言うてるんや!」
父娘の声が、夜の内に響いた。
「うちが潰れたら、から誰が米売る!」
徳蔵が言った。
「今べられへんに、の話してどうするの!」
千代も引かなかった。
父とこれほど真正面から鳴りったのは、まれて初めてだった。
番たちはとっくに奥へがっている。
には父と娘しかいない。
2のには、拾いきれなかった米粒がまだいくつも落ちていた。
徳蔵は何か言い返そうとした。
だがをいたまま、言葉がなかった。
千代も泣かなかった。
りと悔しさと、自分が違っていたのかもしれないというが胸ので混ざりっていた。
「私、あのら助けたかっただけや」
しばらくして、千代が言った。
声はしさくなっていた。
「分かってる」
「嘘や」
「分かってる言うてる」
徳蔵は子へ腰をろした。
昼よりずっと疲れて見えた。
「でもな、助けたいだけで商売はできん」
千代も向かいの子へ座った。
「じゃあ何したらええの」
徳蔵は答えなかった。
それが分かるなら、自分もこれほど苦しんではいない。
そんな顔だった。
「う売ったら皆助かる。でも次の米が買えん」
徳蔵は独り言のように言った。
「う売ったら次は仕入れられる。でも買われへんが増える」
千代は黙って聞いた。
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「蔵に残したら、隠しとる言われる」
徳蔵は苦笑した。
「全部したら、閉めなあかん」
それまで千代には、父が「米を売りたくない」に見えていた。
けれど実際には、徳蔵自もどうしていいか分からなくなっていたのかもしれない。
米の値段が毎のように変わる。
問の条件も変わる。
の客はる。
奉公の活もある。
何を選んでも、誰かが困る。
「お父ちゃん」
「なんや」
「もっと値段がったら、儲かるんやろ」
徳蔵は千代を見た。
「そりゃ、今持ってる米だけ見たらな」
「ほら」
「でも次に買う米もがる」
「……」
「今う売っても、もっとう仕入れたら同じや」
徳蔵は帳面を閉じた。
「それに、米がうなり続けたら、客そのものがおらんようになる」
千代は初めて父の顔をまじまじと見た。
頬がしこけていた。
夜遅くまで帳面と算盤に向かっていた理由を、自分は全部分かっていたつもりになっていた。
「でも」
千代は言った。
「それでも、今みたいなんは嫌や」
「俺も嫌や」
徳蔵の返事はかった。
千代は驚いた。
「で子ども泣いてるの聞いて、何ともわんと座っとるほど、俺も鬼やない」
その言葉を聞いて、千代はしだけ俯いた。
「ほな、何で何も言わへんの」
「言うてどうなる」
「……」
「主が客ので緒に困った顔したら、米がうなるんか」
徳蔵は自嘲するように笑った。
「けてる以、俺は『売る側』や」
千代には、その言葉がくじられた。
翌朝。
徳蔵はをけなかった。
格子戸には「本休業」といたが貼られた。
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