"米蔵を開けた娘" 第7話
朝から何かの客がやって来た。
を見てため息をつく者。
戸を叩く者。
昨のことでっている者。
徳蔵は奥からその声を聞いていたが、戸をけなかった。
町ではさらに騒ぎが広がっていた。
聞には各の米や商へ勢の々が押しかけたという記事が載った。
群衆が集まった所では警察がしている。
それでも抑えきれず、域によっては軍隊までるらしいという話が伝わった。
千代は聞を広げたまま、しばらくけなかった。
昨で起きたことは、ここだけの来事ではなかった。
本で同じようなりが膨らんでいる。
それほどまでに、々は追い詰められていた。
昼過ぎ。
町内会から使いの者がへやって来た。
1枚のを差しした。
活に困る々へ、米を通常よりい価格で販売する。
各で始まっていた「廉売」へ、町の米商にも協力を求めるらせだった。
徳蔵は町内会から渡されたを、何度も読み返した。
千代はしれたところから父の顔を見ていた。
「どうするんです」
佐吉が尋ねた。
徳蔵は答えなかった。
には、米をい価格で販売すること。
必な量を決め、ごとに協力してほしいことがかれていた。
だけが全てを負担するのではない。
町内の米商がそれぞれ米をし、混乱を抑えながら、活に困っている庭へ回す。
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千代には、それが父と自分ので見つからなかった答えのように見えた。
しかし徳蔵は、すぐに「やる」とは言わなかった。
「旦さん」
佐吉がもう度呼ぶ。
「分かってる」
徳蔵はを畳んだ。
「ちょっと考えさせてくれ」
そのは最までをけなかった。
夕方になり、奉公たちが仕事を終えて奥へがった、千代は父の姿がないことに気づいた。
帳にもいない。
裏庭へると、蔵の扉がしいていた。
へ入る。
徳蔵が1で米俵を数えていた。
俵の横にはと算盤が置かれている。
「何してるの」
徳蔵は振り返らなかった。
「数えてる」
「何を?」
「見たら分かるやろ」
「廉売にすん?」
しばらく沈黙した、徳蔵は答えた。
「す」
千代はわず父の横顔を見た。
「ほんまに?」
「全部やないぞ」
徳蔵は嫌そうに言った。
「が潰れん分は残す」
千代の顔に、わずかに笑みが浮かんだ。
「良かった」
その言葉に、徳蔵はすぐ振り返った。
「おが正しかったとは言うてへんぞ」
「分かってる」
「勝に蔵ける米の娘がおるか」
「ごめん」
「ほんまに分かってるんか」
「分かってる」
千代は素直にをげた。
徳蔵はまだ言いたそうな顔をしていたが、それ以叱らなかった。
代わりに、つの米俵を掌で軽く叩いた。
「米いうのはな、売ったら終わりやない」
千代は父を見る。
「次の米を買わなあかん」
「うん」
「今目のにある俵を全部したら、客はぶ」
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「うん」
「でも次のから何もなかったら、結局困るんは同じ客や」
千代は頷いた。
昨までは、父が「米をさない理由」を言い訳だとっていた。
今はし違って聞こえる。
徳蔵は算盤の横に置いたへ数字をき込んだ。
「このくらいならせる」
「もっとせへんの」
徳蔵が睨む。
「もう勝なこと言うな」
千代はをつぐんだ。
父は再び俵を数えた。
その背を見ながら、千代は昨の自分をい返した。
扉をければ、それでを助けられるとった。
けれど度けた蔵へ100いが押し寄せることまでは考えていなかった。
善いことをしようとした。
それは嘘ではない。
しかし、善いとったことが、そのまま良い結果になるとは限らなかった。
徳蔵がを止めた。
「千代」
「何?」
「俺もな」
父は蔵の戸へ目を向けた。
はすでに暗くなり始めていた。
「いつのにか、米俵しか見てへんかったのかもしれん」
千代は何も言わなかった。
「何俵ある」
「いくらで仕入れた」
「何銭がった」
「今売るか、売るか」
徳蔵は1つずつ数えるように言った。
「そんなことばっかりや」
千代は父の横顔を見つめた。
「蔵の向こうに誰が並んどるか、見てへんかった」
徳蔵はさく息を吐いた。
「あの子どもの声、俺も聞こえとった」
昨。
ので泣いていた子ども。
母親へ「お腹がすいた」と言っていた声。
千代だけが聞いていたわけではなかった。
父も聞いていた。
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