"日本人に戻れた父、戻れなかった娘" 第3話
「どこでまれたの?」
そう聞かれると、以は正直に答えていた。
だがあるから、
「父は岡です」
と答えるようになった。
嘘ではない。
ただ、自分のについては言わなかった。
奉と答えれば、必ず次の質問が来る。
なぜ向こうへったのか。
どんな活だったのか。
本なのに、なぜ国でまれたのか。
美津子には、自分のを説するために、毎回同じ話を繰り返すことが苦しくなっていた。
へ帰ると、父はたびたび言った。
「気にするな」
「俺たちは本だ」
宗郎は娘を励ましているつもりだった。
だが美津子にとって、その言葉は々、自分の過を否定されているように聞こえた。
美津子はそのことを父には言わなかった。
父が苦労して本へ帰ってきたこともっていた。
雇い仕事で疲れ切っていることもっていた。
宗郎が「本へ帰れた」とわなければ、失ったややに耐えられないことも、子どもながらにじていた。
だから美津子は黙った。
奉で暮らした13を、自分の胸の奥へ押し込めた。
やがて学を終え、町の郵便局で働くようになった。
それから6。
昭27のになっても、父の癖は変わらなかった。
「ここがおの故郷だ」
美津子はそれに反論しないようにしていた。
だが講条約が発効した朝、
「これで俺たちも本に戻れたようなもんだ」
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と父が言った瞬、美津子のでい閉じ込められていた疑問が、とうとう形になった。
自分はいつ、本ではなくなったのだろう。
そして、いつ「戻った」のだろう。
昭27、美津子は町の郵便局で働いていた。
窓へ来るに応対し、郵便物を仕分けし、忙しいはったまま仕事をすることもあった。計を支えるほどい料ではなかったが、自分で働き、自分の名でを受け取れることを美津子は嬉しくっていた。
仕事を始めてから、町のともしずつ顔見りになった。
そのに、修がいた。
25歳。
町で昔から材を営むの男だった。
最初にちゃんと話したのは、のだった。
仕事を終えた美津子が郵便局をると、空は暗く、細いが途切れることなくっていた。
傘を持っていなかった美津子は、建物の軒へった。
しばらく待てば止むかもしれない。
そうって空を見げていると、横から声がした。
「駅までなら、入っていきませんか」
振り向くと、修が傘を差してっていた。
材への用事で郵便局を訪れたことがあり、美津子も顔はっていた。
「丈夫です。すぐ止みますから」
美津子が断ると、修は空を見た。
「気予報じゃ夜までですよ」
「ラジオを信用してるんですか」
美津子が言うと、修はし考えるような顔をした。
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「あなたよりは」
美津子はわず笑った。
その笑いを見て、修も笑った。
結局、美津子は傘へ入った。
駅までのいだったが、2は仕事のことや町のことを話した。
修は話し方が穏やかで、無理に質問してくることもなかった。
それから何度か顔をわせるようになった。
材から郵便局へ用事がある。
商ですれ違った。
仕事帰り。
最初はい挨拶だけだったのが、しずつ会話が増えていった。
やがて修は、美津子が引揚者だとった。
誰かから聞いたのか、美津子自が話したのか、そののことははっきり覚えていなかった。
ただ、修がその事実をったも、態度を変えなかったことだけは覚えている。
ある、修が尋ねた。
「奉って、どんな町だった?」
美津子の肩に力が入った。
何度も聞かれてきた質問だった。
この次には決まって、珍しそうな顔をされる。
そうっていると、修が慌てたように言葉をした。
「いや、変なじゃなくて」
美津子は黙ったまま彼を見た。
修は続けた。
「美津子さんが子どもの頃にんでた町なら、りたいだけ」
美津子は、その言い方に驚いた。
満州はどんなところだったか。
国はどんなところだったか。
引き揚げは変だったか。
そう聞かれたことは何度もある。
けれど誰かから、
「美津子が子どもの頃にんでいた町」
として尋ねられたことはなかった。
美津子はしずつ話した。
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