昭和21年の春、10歳の正一は母に手を引かれ、復員列車から降りてくる父を待っていた。 3年前に出征した父・慎太郎は、痩せ細った姿でようやく故郷へ戻ってきた。母は泣き崩れ、正一は家族が元に戻ると信じた。 しかし、呉服店の前に立った祖父は、帰ってきた父に向かって言った。 「お前は、この家には入れん」 父がいない間、店を守っていたのは弟の隆次だった。さらに父の後ろには、引き揚げの途中で出会った若い女性の姿があった。 待ち続けた妻、店を守った弟、帰る場所を失った女性、そして戻ったはずの家に居場所をなくした父。 戦争が終わっても、家族の時間は元には戻らない。 復員列車が運んできたのは、再会の喜びだけではなかった――。