"帰ってきた長男に家はなかった" 第3話
いつ戻るのか。
本当に戻るのか。
誰にも答えはなかった。
源蔵はやがて、隆次を正式な跡取りとして扱うようになった。
隆次は結婚した。
子どももまれた。
「おがきて戻ることは、ずっと願っていた」
源蔵は息子へ言った。
「だが、は願いだけでは続かん」
慎太郎は拳を握った。
「だから俺の代わりに隆次を入れたのか」
その瞬、隆次の顔が変わった。
「代わり?」
これまで抑えていたものが切れたように、声がきくなった。
「兄さん、俺がこの3何してたかってるか」
慎太郎は弟を見る。
「が潰れそうになれば、俺がをげた。親父が倒れれば、俺が背負った。義姉さんと正がべるもんに困れば、俺が探しにった」
隆次の妻が、そのろで俯いた。
「それでもずっと言われてたんだ。兄さんが帰ったらを返せって」
慎太郎の表が僅かにいた。
隆次はもう止まらなかった。
「俺は何なんだよ」
声はっていたが、その奥にい押し込めてきた苦しさがあった。
「兄さんが帰るまでの番か?」
誰も答えられなかった。
慎太郎も、初めて弟から目を逸らした。
その沈黙ので、源蔵の線がのへ向いた。
「慎太郎」
父の声がしくなった。
「ところで、そのは誰だ」
全員の線がのへ向いた。
駅からずっと慎太郎たちのろを歩いてきた、若い女性がっていた。
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女性は25歳ほどに見えた。
痩せた体に褪せたもんぺを着て、さな呂敷包みだけを抱えている。族の争いをに、どこへ目を向けていいのか分からない様子でっていた。
慎太郎はしばらく答えなかった。
澄が夫を見る。
「慎太郎さん」
呼びかけられて、慎太郎はようやくをいた。
「千鶴さんだ」
「千鶴さん?」
「帰る途でりった」
それだけなら、誰も驚かなかったかもしれない。
復員兵も引揚者も、故郷までので助けうことはあった。べ物も交通段も分ではなく、見らぬ者同士が頼りわなければ帰れないこともあった。
しかし慎太郎は、続けた。
「このと結婚するつもりだった」
空気が止まった。
澄の顔から血の気が引いた。
正はを理解するまでしがかかった。
父は母と結婚している。
なのに、目のの女性とも結婚する。
子どもには、その言葉がどうつながるのか分からなかった。
「慎太郎さん……」
澄がもう度名を呼んだ。
今度は声がかすれていた。
慎太郎はその顔を見て、初めて自分が何をにしたのか気づいたようだった。
「違う」
慌てて歩づいた。
「澄、違うんだ。聞いてくれ」
澄はろへがらなかった。
ただ、夫を見た。
「何が違うんですか」
慎太郎は言葉に詰まった。
千鶴は慎太郎の妻ではなかった。
恋でもなかった。
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2が会ったのは、本へ戻る途だった。
千鶴は満州からの引き揚げの途で族を失っていた。帰国できたとしても、本に頼れる親族も帰るも残っていなかった。
慎太郎もまた、無事な状態で帰ってきたわけではない。
い移の途、何度も体調を崩した。
をして歩けなくなった、千鶴がを運んだ。自分の分まで減らして、わずかなべ物を分けた。
逆に千鶴が倒れたには、慎太郎が彼女の荷物を持った。
互いに支えった。
それだけだった。
なくとも最初は。
「本に着けば、何とかなるとってた」
慎太郎は族ので、途切れ途切れに説した。
「俺にもがあるとってた。澄と正が待ってるとってた」
澄は黙って聞いていた。
「でも、何もが来なかった。終戦も連絡がつかなかった。俺だって、おたちがきてるか分からなかった」
慎太郎は千鶴を振り返った。
「このも帰るところがないって言った」
千鶴は俯いた。
「だから、俺のに来ればいいと言ったんだ」
澄が静かに聞いた。
「それで、結婚するって?」
慎太郎の喉がいた。
「もし……」
言葉を選ぶように続けた。
「もし俺の族がもういなかったら、そのは俺が千鶴さんを守るって約束した」
澄の目が揺れた。
3、慎太郎を待ち続けた。
戦の噂を聞いても信じなかった。
舅と姑を支え、幼い正を育て、を伝った。
その自分のに、夫は帰ってきた。
しかも帰る所を失った若い女性を連れて。
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