"帰ってきた長男に家はなかった" 第4話
澄は責めるような声をさなかった。
それがかえって慎太郎には辛かった。
「私たちがきていたら?」
澄が尋ねた。
慎太郎は答えられなかった。
千鶴が初めて顔をげた。
「奥さん」
声が震えていた。
「私は……」
だが澄は彼女を止めた。
「あなたに聞いてるんじゃありません」
千鶴は再び俯いた。
慎太郎は妻ので何度もをこうとしたが、どの言葉もなかった。
誰も慎太郎を簡単に責められなかった。
族がきているか分からないまま、何かもかけて帰ってきた。
自分自もいつ命を落とすか分からない所で、千鶴に助けられた。
誰かを守ると約束したことだけを、から非難するのは簡単だった。
だが同じように、澄に傷つくなと言うこともできなかった。
そのの夕方、源蔵は慎太郎をのへ入れなかった。
の倉庫に、寝る所だけを用した。
「今夜はそこで寝ろ」
慎太郎は反論しなかった。
千鶴は所の寺に事を話し、しばらく置いてもらうことになった。
正はその夜、母と同じ部で寝た。
澄は布団に入っても、なかなか眠らなかった。
正は目を閉じたふりをしながら、隣にいる母の気配をじていた。
「母ちゃん」
さく呼ぶと、澄は「何?」と答えた。
「父ちゃん、またいなくなるの?」
い沈黙があった。
澄は正のを撫でた。
「分からない」
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それは正が初めて聞く、母の正直な答えだった。
父が帰ったそのから、族は元に戻るどころか、以よりも複雑な形に崩れ始めていた。
慎太郎が戻って数が過ぎても、の空気はかった。
昼、慎太郎は倉庫からて町を歩いた。焼けた建物、変わった商、いなくなった顔見りを見ながら、自分の記憶のの町と今の町をねていた。
へ戻れば、隆次が客の相をしていた。
以なら自分がっていた所だった。
「この反物は今入らんから、こっちなら何とか用できます」
隆次は慣れた様子で客へ説し、帳面をき、代を計算していた。
慎太郎は入からその姿を見た。
弟は自分がっていた弟ではなくなっていた。
征の隆次は、商売の話をしても興を示さなかった。
「兄さんが継ぐんだから、俺はで働くよ」
そう言っていた。
ところが3のに、隆次は客の顔と好みを覚え、仕入れ先との関係を作り、の借も把握していた。
戦、呉だけではを維持できなかった。
古着も扱った。
反物を農の糧と交換した。
正たちがべるものに困ったには、隆次自が自転でくまでかけた。
ある夜、慎太郎は倉庫で弟と2になった。
「ずっと、ここで寝泊まりしてたのか」
慎太郎が聞いた。
隆次は古い箱を理しながら答えた。
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「忙しいはな」
「勤めは?」
「辞めた」
「いつ」
「兄さんがって半くらいしてから」
慎太郎は初めて聞いた。
「どうして誰も教えなかった」
隆次はを止めた。
「どこにをせば届いたんだよ」
慎太郎は黙った。
隆次はそれ以責めなかった。
箱を持ちげ、棚へ置いた。
「最初は俺だって、兄さんが帰ったらすぐ元に戻すつもりだった」
「……」
「でも1経って、2経って、終戦しても帰ってこなかった」
そのに源蔵は病気になった。
寝込むが増え、へてなくなった。
隆次はを守るだけではなく、の役目まで背負うようになった。
「親父に言われたんだ。おが継げって」
「すぐ受けたのか」
慎太郎の問いに、隆次はし笑った。
「受けるわけないだろ」
初めてので、兄弟らしい言葉が返ってきた。
「兄さんが帰ってくるかもしれないのに、そんなことできるかって言ったよ」
「じゃあなぜ」
「それでも何か決めなきゃならなかったからだ」
隆次の妻との縁談も、その頃にんだ。
相のからすれば、隆次がこのを継ぐのかどうかはきな問題だった。
ただの仮の主なのか。
正式な跡取りなのか。
それが分からないままでは、結婚話をめられない。
源蔵は決めた。
慎太郎の消息が分からない以、隆次を跡取りとして扱う。
そうしなければもも先へめなかった。
「俺だって怖かった」
隆次はい声で言った。
「何が」
「兄さんが帰ってくることが」
慎太郎は目をげた。
「帰ってきてほしかった。でも帰ってきたら、俺がここでやってきたこと全部なくなるんじゃないかってってた」
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