"帰ってきた長男に家はなかった" 第2話
正はその、すべてが元に戻るとった。
父が帰ってきた。
母も笑った。
自分もまた、父と母と3で暮らせる。
には祖父がいて、叔父の隆次もいる。征と同じ族に戻れるのだと、10歳の正は疑わなかった。
けれど駅からへ戻るの途、慎太郎のろには1の若い女性がついてきていた。
褪せたもんぺ姿で、さな呂敷包みを胸に抱えていた。
正はその女性が誰なのからなかった。
澄も、まだ何も尋ねなかった。
そしてのまで戻った、正はようやく気づいた。
父が帰ってきたのに、祖父は笑っていなかった。
呉のには、祖父がっていた。
慎太郎の父である源蔵は、征よりずっとさく見えた。背は曲がり、杖をつき、顔にはい皺が増えていた。
慎太郎は瞬、言葉を失った。
3というが、父親の姿をここまで変えたことに驚いたのだろう。
「親父」
源蔵は何も答えなかった。
慎太郎は玄関までみ、雑嚢を元へ置いた。
「ただいま」
その声を聞いても、源蔵の表は変わらなかった。
代わりに、の引き戸へをかけた。
ゆっくりと戸を閉める。
正は、祖父が何をしているのか理解できなかった。
慎太郎も同じだった。
「親父?」
源蔵は戸を閉め切ると、慎太郎をまっすぐに見た。
「慎太郎」
し掠れた声だった。
「おは、このには入れん」
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慎太郎の顔から、帰還して初めて見せていた笑みが消えた。
澄も息を呑んだ。
「お義父さん、何を言ってるんですか」
源蔵は妻の問いには答えず、男だけを見ていた。
「入れるわけにはいかん」
慎太郎の眉が寄った。
「俺のだぞ」
「分かっている」
「だったら、そこをけてくれ」
「できん」
いやり取りのたびに、空気が固くなった。
駅から帰ってくる族を見ようと、所の々も巻きにっていた。誰も声をかけられない。
その、の奥から音がした。
戸がしき、男がてきた。
隆次だった。
慎太郎の弟。
3、兄を見送ったには勤の仕事をしていた。の商売には々を貸す程度で、跡を継ぐことなど考えてもいなかった。
しかし今の隆次は違っていた。
腰にはの鍵をげ、掛けを締めている。その姿は、誰が見てもこのの主だった。
さらにろから若い女性が現れた。
その女性の元には、2歳ほどの男の子がいた。
慎太郎は弟の顔から、女性へ、そして幼い子どもへと線を移した。
「……どういうことだ」
隆次は何も隠そうとしなかった。
「兄さんがいない、俺がをやってた」
「それは分かってる。俺が頼んだ」
慎太郎の声にはまだ、弟がにを守ってくれていたのだという提があった。
だが隆次は首を振った。
「違う」
慎太郎が目を細めた。
「何が違う」
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隆次は腰の鍵へ度を触れ、それから兄を見た。
「今は、俺のなんだ」
瞬、慎太郎はを理解できなかったようだった。
「俺のだ」
「今は俺が継いでる」
「何を言ってる」
慎太郎の声がきくなった。
「俺は男だ。親父のを継ぐのは俺だ。そう決まってただろ」
源蔵は黙っていた。
慎太郎は弟へ詰め寄った。
「俺がんだと決まったのか!」
「決まってはいなかった」
答えたのは源蔵だった。
「だったら!」
慎太郎が振り向く。
源蔵は杖を握り直した。
「待っていたら、このがんでいた」
その言で、慎太郎はを閉じた。
は、慎太郎がいないに何度も危を迎えていた。
戦争が引くにつれ、呉へ商品が入らなくなった。反物を売りたくても仕入れられず、客にも買う余裕がなかった。
男もりなかった。
空襲では、の裏にあった倉庫の部が焼けた。
源蔵も病気になった。
澄は幼い正を抱えながらを伝ったが、それだけではりなかった。
そこで隆次が勤め先を辞めた。
兄が帰ってくるまでを潰してはいけない。
最初は、それだけのつもりだった。
配品を扱えるところを探し、古着を仕入れ、着物をべ物と交換したい客と農のを取り持った。
汽がうようにかないには、自転で何もった。
源蔵が倒れたには背負って医者へ運んだ。
澄と正のべる物がなくなれば、りいの農を回って芋や麦を分けてもらった。
終戦、がようやくしずつ商売を再できるようになっても、慎太郎の消息は分からなかった。
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