"帰ってきた長男に家はなかった" 第8話
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完結第11話
「ただいま」と帰った亡き夫
昭和31年、雪の降る京都北部の小さな町。 佐和子は、夫の隆一、12歳の娘・節子、6歳の息子・正彦と、穏やかな日々を送っていた。だが節子の実父は、11年前に戦死したはずの男だった。 遺骨もなく、写真だけを墓に納め、何年も帰りを待ち続けた佐和子。やがて彼女は、残された親子を支え続けてくれた隆一と再婚し、ようやく「戦争は終わった」と思えるようになっていた。 そんなある雪の日、玄関に見知らぬ男が立っていた。 痩せた頬、古びた外套、白髪の混じった髪。けれど、その目だけは忘れようのない人だった。 「ただいま」 死んだはずの夫・信夫が、11年ぶりに帰ってきた。 帰る場所を信じ続けた男と、死別を受け入れて生き直した女。残された母娘を守ってきた男。そして、写真の中でしか知らなかった父と向き合う娘。 誰も悪くない。誰も裏切っていない。 それでも、11年という歳月は、ひとつの家族を静かに変えてしまっていた――。昭和1.6万字5 152 -
完結第11話
毎週木曜、つながらない番号へ
昭和34年の秋、山あいの小さな町で交換手として働く19歳の美代子は、毎週木曜の夜8時40分にかかってくる奇妙な電話に気づく。 駅前の赤電話から、決まって同じ女が頼む番号。 「三七二番をお願いします」 しかしその番号は、半年前に閉鎖された繊維工場の女子寄宿舎のものだった。もう誰もいないはずの場所へ、女は雨の日も風の日も、同じ時刻に電話をかけ続けていた。 やがて美代子は、古い接続記録の中に不自然な最後の通話を見つける。 昭和34年3月12日。 その夜を境に、寄宿舎からの電話は途絶えた。 そして11月最初の木曜日、今度は若い男の声が交換台に届く。 「妹を探しています」 半年間つながらなかった番号と、夜勤者名簿から赤い鉛筆で消された一人の少女。 閉ざされた寄宿舎で、あの夜いったい何が起きたのか――。歴史|昭和1.6万字5 2 -
完結第10話
銀行員の妻も列に並んだ日
昭和2年、大阪。 銀行の前には、通帳と印鑑を握りしめた人々の長い列ができていた。怒号が飛び交う中、銀行員の藤田清吉は何度も声を張り上げる。 「預金は安全です!」 しかし清吉自身、その言葉を心から信じてはいなかった。前夜、支店長室で告げられたのは、銀行がすでに危うい状態にあるという現実だった。 それでも行員として、人々を落ち着かせなければならない。 そう思って列の前に立った清吉の目に、ある人物の姿が飛び込んでくる。 通帳を握りしめ、預金を下ろす列に並んでいたのは、ほかでもない清吉の妻・春江だった。 銀行を守るのか、預金者を守るのか、それとも家族を守るのか。 昭和金融恐慌の混乱の中で、一人の銀行員が向き合ったのは、お金よりも重い「信用」の崩壊だった。時代|歴史|昭和1.5万字5 3 -
完結第10話
米蔵を開けた娘
大正7年、米の値段が日に日に上がり、人々の暮らしが追い詰められていた大阪の町。 長屋街で米屋「山城屋」を営む徳蔵の娘・千代は、店先で米を買えずに帰っていく母親たちの姿を見て、胸を痛めていた。けれど店の裏の蔵には、まだ何十俵もの米が積まれている。 なぜ父は、困っている人たちに米を売らないのか。 商売を守ろうとする父と、目の前の空腹を見過ごせない娘。ある日、父が店を離れた隙に、千代はついに蔵の鍵を手に取る。 しかし、善意で開けたはずの蔵の扉は、町の怒りを一気に呼び込んでしまう。 米を求める人々が押し寄せる中、父・徳蔵が向かった先は警察だった。 あの日、蔵の前で父と娘が見たものは、ただの米騒動ではなかった。 一杯の飯をめぐって、商売の責任と人の暮らしが激しくぶつかった夏の物語。時代|歴史1.4万字5 17 -
完結第10話
米はあるのに、田を売った
明治6年、信州の小さな村に新しい税の知らせが届いた。 これまで米で納めていた年貢は、これから「金」で納めることになるという。百姓の源蔵は、米を売れば払えるはずだと考えていた。田はあり、家族も働き、蔵には米俵も積まれている。何も変わらないように思えた。 しかし豊作の秋、源蔵は思い知らされる。 米はある。けれど、税を払う金が足りない。 土地には値段がつき、米にも値段がつき、農家の暮らしは少しずつ追い詰められていく。やがて源蔵は、祖父の代から守ってきた田を一枚売る決断を迫られる。 「米を作るだけじゃ、駄目な世の中になったんだ」 父がその言葉を口にした日、息子も娘も、それぞれの人生を選び始める。 明治という新しい時代の波が、一軒の農家に突きつけた残酷な現実とは――。時代|歴史1.4万字5 58