昭和27年4月28日。講和条約が発効し、日本が再び独立国として歩み始めた日、父はラジオの前で静かに喜んだ。 「これで俺たちも、ようやく日本人に戻れたようなもんだ」 しかし、20歳の娘・美津子だけは笑わなかった。 彼女は満州の奉天で生まれ、13歳までそこで暮らした。父にとって日本は「帰ってきた祖国」だったが、美津子にとって日本は、戦後に初めて足を踏み入れた知らない土地だった。 引き揚げ後の暮らし、周囲の視線、結婚を前に突きつけられる“向こう生まれ”という言葉。 「私の故郷は、誰が決めるの?」 講和の日に交わされた父と娘の一言は、長く黙ってきた家族の傷を静かに浮かび上がらせていく――。