"日本人に戻れた父、戻れなかった娘" 第6話
自分から話すために来た。
座布団へ座ると、美津子はくをげた。
それから顔をげた。
「私は奉でまれました」
志げのがしいた。
美津子は続けた。
「そこで13歳まで暮らしました」
「本でまれていません」
「この町の昔のことも、皆さんほどりません」
志げは俯いたままだった。
修の父は黙って美津子を見ていた。
「でも、それを隠してへ嫁ぐつもりはありません」
美津子の声は震えなかった。
「向こうでまれたことを恥ずかしいともいません」
度息を吸った。
「今、本で暮らしていることも嫌ではありません」
「両方、私です」
部のは静かだった。
を通るの音が聞こえた。
美津子は、断られるならそれでも仕方がないとった。
だが自分の過を消したまま受け入れられるよりは、その方がよかった。
最初にをいたのは、修の父だった。
「向こうでまれたことより」
そこで言葉を切り、美津子を見た。
「俺は、うちの親戚とうまくやれるかの方が配だな」
美津子はわず顔をげた。
修の父はし笑った。
「このの親戚は面倒だから」
隣で志げが夫を睨んだ。
「あなた」
修がさく笑った。
美津子も、張り詰めていた息を吐いた。
それですぐに全てが解決したわけではなかった。
志げのが消えたわけでもない。
の親戚から何も言われなくなったわけでもない。
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結婚の話は、何度もきつ戻りつした。
美津子も、「の嫁らしくしなければ」と自分を押し殺すつもりはなかった。
方、では宗郎が、娘のいないに何度も押し入れをけるようになっていた。
母はその姿に気づいていたが、何も言わなかった。
押し入れの奥には、古い箱がつあった。
宗郎は、それをいけていなかった。
箱のには、数枚の古い写真が入っていた。
引き揚げの混乱ので、宗郎が最まで放せず、類のへ隠すようにして持ち帰ったものだった。
奉の先で撮った写真。
若い宗郎と妻が並んでいる写真。
学の美津子が、所の子どもたちと緒にっている写真。
写真のはし傷み、角も折れていた。
それでも顔は分かった。
宗郎は枚ずつ取りした。
先で腕を組んでいる自分は、今よりずっと若い。
その横で妻が笑っていた。
別の写真には、幼い美津子が写っていた。
肩まで伸ばした髪。
細い腕。
今の娘からは像できないほど無邪気な顔で笑っている。
背景には、あの頃んでいた町があった。
娘には、
「昔のことは忘れろ」
と何度も言ってきた。
本へ帰ってきたのだから、を向け。
ここがおの国だ。
ここがおの故郷だ。
そう言い続けてきた。
だが自分自は、写真を枚も捨てられなかった。
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宗郎は写真を見ながら、娘に言われた言葉をい返していた。
「私の故郷は、誰が決めるの?」
あの、自分は何も答えられなかった。
答えられないどころか、考えたことすらなかったのかもしれない。
宗郎にとって、本は故郷だった。
岡でまれ育ち、若い頃にを渡った。
向こうで仕事を始め、を持ち、娘がまれても、自分はいつか本へ帰るだとっていた。
だから戦争が終わり、本へ引き揚げることになったも、「帰る」という言葉を疑わなかった。
だが美津子は違った。
奉でまれた。
最初に覚えたも、も、学も、友の顔も、全部向こうにあった。
宗郎が本をいしていた頃、美津子は奉しからなかった。
それなのに自分は、娘が泣いて「ここがなの」と言った、頬を叩いた。
そののの触を、宗郎は忘れていなかった。
度だけ。
本当に度だけだった。
けれど、その度を忘れていたふりをしていた。
宗郎は箱を閉じなかった。
そのの夜、美津子が仕事から帰ると、父が珍しく声をかけた。
「美津子」
娘はち止まった。
父とまともに話すのは、あの論以来だった。
「何?」
「ちょっと来い」
美津子は警戒するように父を見た。
宗郎は何も言わず、ちゃぶ台のへ座った。
そのには、古い写真が並べられていた。
美津子は瞬、何の写真か分からなかった。
次の瞬、目を見いた。
「これ……」
枚をに取った。
奉の先。
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