"日本人に戻れた父、戻れなかった娘" 第4話
の寒さ。
炭の匂い。
の賑わい。
学へく途の菓子。
の裏の庭。
修は面がってげさに驚くこともなく、ただ聞いていた。
「じゃあ、岡より寒かったんだな」
「ずっと寒かった」
「それは俺には無理だ」
「めば慣れるよ」
そんな何でもない会話が、美津子には嬉しかった。
自分の過を話しても、目ののの態度が変わらない。
それだけのことが、今までの美津子にはなかった。
やがて修が結婚を申し込んだ。
げさな言葉ではなかった。
2で歩いている、し緊張した顔で言った。
「これからも緒にいたいとってる」
美津子はすぐには答えられなかった。
嬉しかった。
同に、怖くもあった。
結婚すれば、自分だけの問題ではなくなる。
との関係になる。
それでも美津子は修の申しを受けた。
へ帰ると、そののうちに父へ話した。
宗郎は驚いた、顔をるくした。
「材の男か」
「うん」
「昔からこの町にあるだ」
父は何度も頷いた。
「真面目なだ。いいじゃないか」
母も微笑んだ。
久しぶりにのへるい話題ができた。
宗郎は特にんでいた。
娘がへ嫁げば、この町に根を張ることができる。
自分たちが引き揚げてきた族ではなく、ようやく町の員になれる。
美津子には、父がそう考えていることが何となく分かった。
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それでも、その夜は何も言わなかった。
自分も修と結婚したい。
ただそれだけを考えることにした。
数。
から修の母・志げが、を訪ねてきた。
丁寧な女性だった。
美津子の母と挨拶を交わし、お茶をみ、気や商売の話をした。
声を荒らげることもなかった。
美津子は最初、正式な縁談の話をしに来たのだとっていた。
だが志げが膝のでをね、
「美津子さんが悪いという話ではないんです」
と言った瞬、
美津子には、そのに何が続くのか分かってしまった。
志げは申し訳なさそうに目を伏せた。
「ただ……」
度言葉を止めた。
「美津子さんは、向こうのおまれなんですね」
宗郎の顔がくなった。
「娘は本です」
声はかった。
志げはすぐに頷いた。
「もちろんです」
「戸籍もあります」
「それも承しております」
それでも、志げの表から迷いは消えなかった。
は町でく商売を続けてきた。
修は男で、いずれを継ぐことになる。
その妻となれば、親戚付きいも、商売の付きいも避けて通れない。
志げは周囲から言われたのだという。
「引揚げのは親類関係がよく分からない」
「向こうでどんな暮らしをしていたなのか分からない」
美津子は黙って聞いていた。
どの言葉も初めてではなかった。
学でも、町でも、似たようなことを何度もにしてきた。
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志げは決して美津子を侮辱しようとしているわけではないようだった。
むしろ傷つけないよう、慎に言葉を選んでいた。
それがかえって苦しかった。
「できれば、こののことをよくっている娘さんの方が……」
そこまで言ったところで、宗郎が茶碗を置いた。
さな音がした。
「結構です」
美津子が父を見た。
「お父さん」
宗郎は娘へ目を向けなかった。
「娘を気に入らないなら、こちらからお願いしますとは言いません」
志げは慌てた。
「そういうではないんです」
「同じでしょう」
母がに入ろうとしたが、宗郎はちがった。
志げはくをげて帰っていった。
玄関が閉まったも、宗郎のりは収まらなかった。
「何が引揚げだ」
「何が向こうまれだ」
部のを歩きながら、何度も言った。
「俺たちは本だ」
美津子は黙って座っていた。
宗郎は娘ではなく、誰か目に見えない相へ向かってっているようだった。
「講も済んだ」
「これから本は変わるんだ」
「いつまでも戦争ののことを言わせるな」
その、美津子ので何かが切れた。
「お父さんが番言ってるじゃない」
宗郎が振り返った。
「何だと?」
美津子はちがった。
母が配そうに2を見た。
「お父さん、ずっと私に言うでしょう」
美津子の声は震えていた。
「本なんだから」
「本へ帰ってきたんだから」
「ここが故郷なんだからって」
宗郎は眉を寄せた。
「それの何が悪い」
「私にとっては違うの!」
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