"出征前、父が婚姻届を出した" 第2話
「話がある」
その声を聞いた瞬、正は嫌な予を覚えた。
だがそのはまだ、父が何を考えているのかまでは分からなかった。
志津子は、正が2から付きっている女性だった。
両も2の仲をっており、すでに結婚を提とした話がていた。ただし、すぐに婚姻届をすつもりはなかった。
正が学を卒業する。
仕事を決める。
それからをどうするか、どこで暮らすかを2で考える。
それが正と志津子だけでなく、両にとっても自然な順序だった。
宗吉も以は急かさなかった。
「まだ学だ。まず学をろ」
そう言っていたくらいだった。
ところが、正の征が現実になったことで、父の考えは夜にして変わった。
夕、宗吉は族を茶のへ集めた。
正も何を言われるのか分からないまま父のに座った。美代は宗吉の表を気にし、節子はしれたところで膝を揃えていた。
宗吉は迷う様子もなく言った。
「るに婚姻届だけせ」
正は瞬、父が何を言っているのか理解できなかった。
「何言ってるんだ」
「何って、決まってるだろう」
宗吉は当然の話をするような調だった。
「志津子さんを嫁にする」
美代も驚き、夫の顔を見た。
「あなた、こんなに急に……」
宗吉は妻を睨むように見た。
「こんなだからだ」
その言で、美代はを閉じた。
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宗吉は正へ向き直った。
「おに何かあった、あの娘は何になる」
正は返事をしなかった。
「婚約者なんて、のでは何でもない。おがいなくなれば、藤原とは何の関係もなくなる」
「だからって……」
「ちゃんと嫁にしておけば、こので守れる」
宗吉のでは、その理屈に迷いがなかった。
男が戦へく。
いつ戻るか分からない。
戻らない能性さえある。
ならば征に婚約者との関係を正式なものにしておくのが、息子に対する親の責任だと考えていた。
正がのも志津子は藤原の嫁として暮らし、美代や節子と支えっていけばいい。
宗吉にとって、それは志津子を縛ることではなかった。
むしろ守ることだった。
しかし正には、父の言葉がすぐには受け入れられなかった。
「志津子は何て言うんだ」
「だから、向こうのと話す」
「本の気持ちを聞いてないだろ」
宗吉の眉がいた。
「結婚するつもりだったんだろう」
「そうだけど」
「なら同じだ」
正は黙った。
昨まで、卒業してから結婚すればいいとっていた。
それが今になって、
「すぐ結婚しろ」
と言われる。
理由は、自分がいつ戻るか分からないからだった。
確かに理屈は分かる。
征に急いで結婚する学がいることもっていた。
それでも正は、胸のどこかに引っかかるものをじていた。
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翌の夕方、志津子と両親が藤原へやって来た。
茶のには、宗吉、美代、正、志津子とその父母が向かいって座った。節子は隣の部にいるよう言われていたが、襖の向こうから声は聞こえていた。
最初にをいたのは宗吉だった。
「急な話で申し訳ありません」
志津子の父がをげた。
「いえ」
「正のことは、もうお聞きになっていますね」
「はい」
いやり取りのあと、宗吉は核をにした。
「今に婚姻届をしたいとっています」
志津子の父は目を見いた。
母親も娘を見た。
しばらく沈黙が続いた。
やがて父親がゆっくり頷いた。
「このご世ですからな」
その言葉には、驚きと諦めが混じっていた。
「いつ何があるか分からん。2が元々そういう約束をしていたのなら、そうするのもつでしょう」
志津子の母も目を伏せた。
「2が決めたことなら……」
両親の話だけを聞けば、すぐにでもまとまりそうだった。
ところが志津子本だけは、言も話さなかった。
膝ので両をね、俯いていた。
宗吉はしばらく待った。
「志津子さん」
彼女が顔をげた。
「どうした」
宗吉の問いに、志津子は唇を結んだ。
父親が隣からさく促した。
「志津子」
すると彼女は、膝のでを握ったまま言った。
「結婚しません」
茶のから、物音が消えた。
志津子の父が娘の顔を見た。
「何を言ってるんだ」
「今は、結婚しません」
宗吉の表が変わった。
「正がくことになったからか」
「違います」
「じゃあ何だ」
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