"出征前、父が婚姻届を出した" 第3話
志津子はしだけ正の方へ顔を向けた。
「私は、正さんと結婚したいです」
宗吉は眉に皺を寄せた。
「だったら同じじゃないか」
志津子は首を横に振った。
そして今度は、先ほどよりはっきりした声で言った。
「違います」
皆が彼女を見ていた。
「私は正さんと結婚したいんです」
そこで度言葉を切った。
「藤原を守るために、嫁になるんじゃありません」
宗吉の顔がみるみる赤くなった。
志津子の言葉は、彼にとっていもよらないものだった。
宗吉は、自分が無理なことを言っているとは考えていなかった。むしろ正にも志津子にも、今できる最善のことをしようとしているつもりだった。
「何を勝なことを言ってる」
い声だった。
志津子の母が娘の袖を引いた。
「志津子、言い方を考えなさい」
だが志津子は俯かなかった。
宗吉は続けた。
「男の嫁になるっていうのは、そういうことだ。正がいないも、このを守る。それが嫁だろう」
志津子は静かに首を振った。
「正さんがいないで、いつ帰ってくるかも分からないを待ちながら、藤原の嫁としてきることを、今ここで決めろと言われてもできません」
「何だと」
「正さんと緒に暮らしたくて結婚するのと、正さんがいないに入るのは、私には同じではありません」
宗吉はらかに苛っていた。
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「戦争なんだ。何もかも平と同じにできるとっているのか」
志津子は答えなかった。
その代わり、しを置いて尋ねた。
「もし正さんが帰ってこなかったら、私はこのの嫁ですか」
宗吉は迷わなかった。
「当たりだ」
その言を聞いた瞬、志津子の表が変わった。
ったわけでも、泣いたわけでもなかった。
ただ、それまで迷いながら話していた顔から迷いが消えた。
「じゃあ、やっぱりできません」
父親が慌てた。
「お、何を言ってるか分かっているのか。正さんと結婚する気がないと言っているのと同じだぞ」
「違うよ」
志津子は父親を見た。
「私は正さんと結婚したい。でも、帰ってこなかったまで今ここで全部決めることはできない」
茶のの端で、美代が黙って話を聞いていた。
夫の言い分が分からないわけではなかった。
息子が征する。
婚約者を正式に嫁にしておけば、息子に万のことがあっても藤原が面倒を見ることができる。
宗吉は本気でそう考えている。
ただ、その「守る」という言葉のに、志津子自が何を望んでいるかという問いが抜け落ちていることも、美代にはじられた。
正は最初からほとんどをかなかった。
志津子が話すも、父がるも、じっと畳を見ていた。
宗吉はその態度にも腹をてた。
「おも何か言え!」
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正がゆっくり顔をげた。
皆の線が斉に集まった。
正は志津子を度見てから、父へ向き直った。
「俺も結婚しない」
宗吉は目を見いた。
「正」
「今は、しない」
父は勢いよくちがった。
「おまで何を言ってる!」
正もった。
「志津子の言う通りだ」
「何が言う通りだ。征するんだぞ、おは」
「分かってる」
「いつ戻るかも分からないんだぞ!」
「だからだよ」
正の声も、初めてしくなった。
「俺はいつ帰るか分からないんだぞ」
「だからこそ嫁を残すんだ!」
宗吉は髪を入れずに言い返した。
正は父を見た。
「誰のために?」
瞬、宗吉が言葉に詰まった。
だがすぐに答えた。
「おのためだ!」
正はさく首を振った。
「違う」
「何が違う!」
「父さんは藤原ののために言ってる」
襖の向こうで聞いていた節子は、息を止めた。
このでは、男が父親へ正面からそんなことを言うのを見たことがなかった。
宗吉も同じだったのだろう。
しばらく息子を睨んだままかなかった。
「を守ることの何が悪い」
ようやく言った。
正は声を落とした。
「悪くないよ」
父の顔を見たまま続けた。
「俺だってこのが嫌いじゃない。父さんや母さんや節子をどうでもいいとってるわけじゃない」
宗吉は黙っていた。
「でも、そのために志津子のまで今ここで決めるのは違う」
「嫁になるっていうのは、そういうことだ」
「それを志津子が決めるんじゃなくて、父さんが決めるのか?」
宗吉の頬が張った。
「戦争にくのは俺だ」
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