"出征前、父が婚姻届を出した" 第6話
族に囲まれた学。
見送りに来た教師。
友。
親戚。
さなの丸の旗がので揺れていた。
皆ができるだけるく振るっていた。
泣いている母親の肩を叩きながら笑う息子。
「すぐ帰る」と声で言う学。
「体だけは事に」と何度も繰り返す父親。
節子には、その景全体が自然なほどるく見えた。
本当は誰も笑いたくないのではないか。
けれど泣いた顔で送りしてはいけないとい、必で笑っているのではないか。
そんな気がした。
正も族のではなるべく普通にしていた。
美代は何度も息子の襟元を直した。
「もういいよ、母さん」
「曲がってるから」
「曲がってないよ」
そう言いながら正は笑った。
節子は何を話せばいいか分からず、兄のそばをれなかった。
宗吉はしれた所にっていた。
発のになっても、父と息子はあのの言い争いについて話していなかった。
宗吉は々正を見る。
正も父へ目を向ける。
だが、どちらも何も言わない。
志津子も駅へ来た。
族よりしれた所にち、正と何度か目をわせた。
「来てくれたんだ」
「来るよ」
「昨会ったばかりなのに」
「今が発なんだから」
正は笑った。
それだけの会話だった。
列が入ってくるというらせがあり、ホームがざわめいた。
々が荷物を持ち直した。
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見送る側も、最に何を言えばいいのか分からなくなったように次々と声をかけ始めた。
そのだった。
「志津子さん」
宗吉が突然呼んだ。
志津子が振り返った。
正も父を見た。
宗吉は懐へを入れた。
そこから枚のを取りした。
節子は見覚えがあった。
あの、父が用していた婚姻届だった。
まだ持っていたのだ。
志津子も気づいたらしく、表をくした。
宗吉はをしばらく見つめた。
誰も何も言わなかった。
次の瞬、宗吉は婚姻届を両で持ち、ゆっくり央からつに破った。
節子は息をのんだ。
さらに半分に折り、もう度破った。
宗吉は片をのに持ったまま、志津子へ向き直った。
「すまなかった」
志津子は何も答えなかった。
宗吉は続けた。
「帰ってきてからだな」
正が父を見た。
宗吉は息子とは目をわせなかった。
「何もかも」
その声はさかった。
「帰ってきてから、自分たちで決めろ」
志津子はしばらく宗吉を見たあと、くをげた。
「はい」
正は何か言おうとした。
だが列がホームへ入ってきた。
きな音とともに々の声がなった。
別れの瞬が、待ってくれなかった。
正は荷物を持ち、列へ乗った。
窓際につと、族の姿を探した。
美代がすでに泣いていた。
節子は必にを振った。
「兄ちゃん!」
何度も叫んだ。
宗吉はをげなかった。
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ただ真っ直ぐ息子を見ていた。
志津子もそこにいた。
正と目がった。
彼女は、
「待っています」
とは言わなかった。
正も、
「必ず帰る」
とは言わなかった。
ただ窓越しにをげた。
志津子もさくをげた。
やがて列がいた。
節子は兄の名を叫びながらった。
美代も何か言っていた。
宗吉はそのからかなかった。
列がざかり、とうとう見えなくなった、節子が父を見ると、宗吉はまだ線の向こうを見ていた。
のには、細かく破られた婚姻届が残っていた。
正がいなくなった藤原は、急に広くなったようにじられた。
階の部にはまだ正の机があった。
輩へ譲らなかった本も何冊か残っていた。
節子は々その部へ入り、窓をけた。
誰もいない机を見ると、兄が学から遅く帰ってきて、
「腹減った」
と言いながら階段をりてきそうな気がした。
美代は以と同じように事を続けた。
宗吉も毎印刷の仕事をした。
誰も活を止めることはできなかった。
ただ、卓には正の席が空いたままだった。
志津子は々藤原を訪れた。
最初に来た、宗吉はし驚いた顔をした。
婚姻届をさなかった以、彼女は藤原の嫁ではない。
正が征している、へ来る義務もなかった。
それでも志津子は、
「美代さん、お元気ですか」
と言いながら玄関にった。
に何か特別なものを持っているわけでもない。
正の消息を聞きに来たわけでもなかった。
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