"新幹線の日、父は駅弁を売らなかった" 第4話
町の方で女学の先をしていた若いは、体調を崩した親の世話をするため、実と町をき来していた。
そのに使っていたのが、こののり列だった。
「毎週、同じ曜の同じに来た」
栄吉の声がし柔らかくなった。
「最初はただの客だったよ」
若い栄吉は箱を肩に提げ、今と同じようにホームを歩いていた。
は列が到着するたび弁当を買った。
特別いものではない。
いなり寿司だったり、幕の内だったり。
最初は、
「1つください」
「はいよ」
それだけだった。
だが何度も同じに顔をわせれば、自然と覚える。
「また来たなとうようになった」
栄吉はし照れたように笑った。
「向こうも俺の顔を覚えてたんだろうな」
次第に、
「今は寒いですね」
「が続きますね」
そんな言葉を交わすようになった。
わずかな会話だった。
列はくまらない。
栄吉もの客へ弁当を売らなければならない。
それでも、その数秒をいつしか楽しみにするようになったという。
夫は父の横顔を見た。
こんな表は久しぶりだった。
母がきていた頃でさえ、父が昔のことをこれほど楽しそうに話す姿を見た記憶がない。
「そんな話、初めて聞いた」
夫が言うと、栄吉は肩をすくめた。
「話すほどのことでもない」
「話すほどのことだろ」
「俺にはな」
父はそう言って、また線を見た。
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その言葉のを、夫はまだ完全には理解できなかった。
と栄吉が言葉を交わすようになってからも、2の関係はすぐには変わらなかった。
毎週、同じ。
列が着く。
が窓から顔をす。
栄吉が弁当を渡す。
列が発する。
それだけだった。
「名だって、しばらくらなかった」
栄吉は言った。
「じゃあ何て呼んでたんだよ」
夫が尋ねると、父はし考えた。
「呼ぶ必がなかったんだよ」
言われてみればそうだった。
乗客と駅弁売り。
いので交わす言葉だけなら、名など必ない。
あるの、その列が幅に遅れた。
駅にはいつ到着するのか分からない乗客が待ち、売もホームも落ち着かない空気になった。
栄吉は予定していた弁当をほとんど売り切れず、箱にはいなり寿司がいくつか残っていた。
「当は今みたいに、残ったものを簡単に捨てるなんて来なかった」
戦もない頃だった。
米も砂糖も、今ほど自由に使える代ではない。
べ物には今以のみがあった。
ようやく列が到着した、はいつもの両からりてきた。
「りてきたの?」
夫が聞いた。
「あのは実まで帰るだったからな」
の遅れで、も疲れていた。
駅から先は歩く予定だった。
栄吉は箱に残っていたいなり寿司を見た。
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もうめていた。
売り物として客へすにはしが経ちすぎている。
「腹、減ってませんか」
栄吉はそう声をかけたという。
は驚いた。
「え?」
「これ、残り物だけど」
栄吉はいなり寿司を差しした。
「売れ残りだからはいらない」
は最初、慮した。
それでも栄吉が、
「俺が持って帰ってもいきれないから」
と言うと、ようやく受け取った。
包みをく。
めたいなり寿司。
豪華なものではない。
栄吉自、親切というほどのことをしたつもりもなかった。
だがはいなり寿司を1つにすると、半分に割った。
そして、
「じゃあ半分どうぞ」
と差しした。
「親父に?」
「ああ」
「自分がもらったのに?」
「変なだったんだよ」
栄吉は笑った。
「俺も腹が減ってるだろうって」
2はホームの隅で、めたいなり寿司を半分ずつべた。
列の遅れで駅は慌ただしかった。
誰も2を気にしていなかった。
はべながら、
「おいしいですね」
と言った。
栄吉は、
「めてるのに?」
と聞いた。
は笑った。
「めていても、おいしいものはおいしいです」
それが、2の距がし変わった最初のだった。
次に会った、は自分から名を言った。
「です」
栄吉も名乗った。
「田栄吉」
それから会話が増えた。
が親の病で実へ戻っていること。
町では先をしていること。
栄吉が戦から駅で弁当を売っていること。
戦争も駅をれなかったこと。
それでも、ゆっくり話すなどない。
1回のはわずかだった。
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