"新幹線の日、父は駅弁を売らなかった" 第8話
「幹線の代なんだから、しくらいしい包みにしたらどうだ」
以、夫は何度か提案したことがある。
栄吉はそのたび、
「今の庫がなくなってから考える」
と言った。
夫はそれを頑固さだとっていた。
だが今になって、し考え方が変わった。
しくすることと、全部捨てることは同じではない。
変えるもの。
残すもの。
その区別をしなければならない。
箱の隅に、玉子焼きが置いてあった。
し甘い。
母のが考えただった。
戦の糧事がしずつ落ち着き始めた頃、は、
「旅の途くらい、し甘いものが入っていた方が嬉しいでしょう」
と言って玉子焼きに砂糖を使うようになった。
最初、栄吉は反対したという。
「弁当に甘い玉子なんてわん」
「べてから言ってください」
はそう返した。
結局、客の評判は良かった。
特に子ども連れの乗客がび、それ以来ずっと入れるようになった。
夫も子どもの頃からその玉子焼きが好きだった。
母がくなったも、付けは変えていない。
「これも入れよう」
夫が言った。
栄吉は玉子焼きを見た。
「いつも入れてるだろ」
「今は番」
「何でだ」
「母さんが見えるように」
栄吉は瞬、何も言わなかった。
夫自、にしてからし恥ずかしくなった。
「何だよ。嫌ならに入れるけど」
「そのままでいい」
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父はく答えた。
弁当を詰め終える。
夫は箱の蓋を閉め、父へ差しした。
「ほら」
栄吉は受け取らなかった。
「おがけ」
「俺は午った」
「じゃあそのまま売れ」
「今は親父がくんだよ」
「何で」
夫はし考えた。
「しい刻表で、最初の1だから」
栄吉は黙った。
「午は古いを見送った」
夫は続けた。
「午からはしいで売ればいい」
栄吉の線が箱へ落ちた。
古い箱。
30使い続けた具。
そのには、妻がを決めた玉子焼きが入っている。
そして駅では、幹線業にわせたしい刻表がき始めている。
昔と今が同じ箱のに入っているようだった。
「お、朝と言うことがずいぶん変わったな」
「親父のせいだよ」
「俺は何もしてない」
「昔話をした」
「聞いたのはおだろ」
2はしばらく顔を見わせた。
やがて栄吉が箱へを伸ばした。
持ちげる。
肩へかける。
その作は驚くほど自然だった。
30繰り返してきた体の記憶だった。
夫はその姿を見て、し笑った。
「まだ似うな」
「まだ、とは何だ」
「58歳だろ」
「おより歩ける」
「じゃあ見せてもらおうか」
栄吉は玄関へ向かった。
夫もを追った。
駅へのを、今度は朝とは違う気持ちで歩いた。
朝の夫は父を置いて、で未来へ急いでいた。
午は父と並んでいた。
歩く速さは幹線とは比べものにならない。
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それでも夫には、その方が切な気がした。
駅へ着く。
売の責任者が栄吉を見つけて声をげた。
「何だ、栄吉さん。もう今は来ないのかとったぞ」
栄吉はしをげた。
「午、用があってな」
「幹線のに仕事より事な用か?」
栄吉は度だけ夫を見た。
「まあな」
それ以は説しなかった。
ホームへ向かう。
箱が肩でさく揺れる。
しい刻表になった午の列が、くからづいてきた。
午のホームには、午とは違う空気が流れていた。
業式の興奮はし落ち着き、駅は常へ戻り始めていた。
それでも乗客のには幹線の記事をきく載せた聞があり、あちこちで「京」「阪」「ひかり」という言葉が聞こえた。
栄吉はホームの央へった。
午最初の列が入ってくる。
発刻もも、これまでとはし違う。
夫はしれた所から父を見ていた。
列が止まる。
窓がく。
栄吉は度だけ息を吸った。
そして声を張った。
「弁当、お弁当です――」
30使ってきた声だった。
若い頃よりい。
昔ほどきくはない。
それでもホームの端まで議とよく通った。
窓際の男がを挙げた。
「弁当1つ」
栄吉がづく。
幕の内を渡す。
別の両から、
「いなりある?」
と声がかかる。
「ありますよ」
栄吉はゆっくり歩く。
以のようにることはない。
それでも、どの窓から呼ばれたか見落とさない。
昔からこの駅を利用しているらしい配の男性が、栄吉を見て笑った。
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