"卒業写真にいた父" 第4話
坂はそれを、健司のへ静かに置いた。
表には鉛でさくかれていた。
《昭40 健司くん分》
健司は文字を見たままけなかった。
「……何ですか、これ」
「おさんのだ」
「残ってたんですか」
坂は頷いた。
「ずっとな」
健司は封筒へを伸ばした。
指先が、妙にたかった。
から枚の印画を取りす。
組、38。
列に座った女子たち。
そのろに並ぶ男子。
列目の端には、12歳の自分がいた。
胸元ののは、やはりしだけ曲がっている。
誰も目を閉じていない。
写真は鮮だった。
失敗などしていなかった。
健司はゆっくり顔をげた。
「何で……」
声がかすれた。
「ちゃんと撮れてるじゃないですか」
坂は黙っていた。
「僕に嘘をついたんですか?」
「ああ」
「どうして?」
坂はすぐには答えなかった。
その代わり、健司ののにある写真へ線を落とした。
「の端を見てみろ」
「?」
「子どもたちじゃない。ガラス戸の向こうだ」
健司は写真を持ち直した。
の端。
窓ガラスに反射する。
その向こうの細い。
最初はただのにしか見えなかった。
だが目を凝らしているうちに、そこにの男がっていることが分かった。
背広姿だった。
のへ入ろうとはせず、建物のへ体を半分隠している。
それでも顔は、はっきりこちらへ向いていた。
38の子どもたちのの誰かを、じっと見つめている。
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「この……誰ですか」
健司が尋ねると、坂は唇を結んだ。
そして、昔から抱えてきた何かをようやく放すように、い声で言った。
「健司くん」
健司は顔をげた。
坂は写真のの男を指した。
「そのが誰なのかを話すに、俺はおさんに謝らなきゃならないことがある」
のでは、夕方の商を自転のベルが度だけ通り過ぎた。
健司は写真から目をせなかった。
い、自分だけが嫌われていた証拠だとっていた枚のに、見覚えのない男がっている。
そして坂は、その男をっている。
「どういうことなんですか」
坂はく息を吸った。
「昭40のあの、その男は、おさんを見るためだけにこの町へ来たんだ」
「僕を見るため?」
健司は聞き返した。
坂は頷いた。
「そうだ」
「誰なんです」
自分でも分かっていた。
答えを聞くから、胸のどこかがざわついていた。
それでも、にして確認しなければ信じられなかった。
坂は写真を見つめたまま言った。
「おさんのお父さんだよ。修司さんだ」
のから音が消えたようにえた。
健司はしばらく何も言えなかった。
父の顔を、ほとんど覚えていない。
4歳の頃まで緒に暮らしていたはずだが、記憶に残っているのはきなと、古い着の匂い、それに玄関先で靴を履いていたろ姿くらいだった。
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母の持ち物にも、父の写真はほとんど残っていなかった。
「父親が……あの、来てたんですか」
「ああ」
「卒業式に?」
「式には入ってない。このへ来た」
健司はもう度写真を見る。
につ男。
顔までは鮮ではない。
それでも、自分が記憶の奥に持っている父の輪郭と、どこかなるような気がした。
「どうしてにいるんです?」
「へ入らなかったんだ」
「何で?」
坂は子を勧めた。
健司も黙って座った。
閉準備の写真館で、だけが向かいった。
「撮が始まるしだった」
坂は話し始めた。
そのの午、子どもたちが来るより先に、の男が写真館を訪ねてきた。
坂が最初に修司を見た、すぐには誰か分からなかったという。
婚、修司は町をていた。
以より痩せ、仕事着ではなく古い背広を着ていた。
「今は、あの子の卒業だと聞きまして」
修司はそう言った。
「誰から聞いたかまでは言わなかった。町に昔のりいがいたんだろうな」
坂は「なら学へけばいい」と言った。
卒業式が終わる頃だった。
のから見るだけでもいい。
ところが修司は首を振った。
「母親にられたくありません」
その言で、坂も事を察した。
婚のに何かあったことは町のもっていた。
ただ、夫婦ので何があったのか、正確にる者はほとんどいなかった。
健司は拳を握った。
「母は父に会わせたくなかったんですか」
「なくとも、俺はそう聞いた」
「父から?」
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