"毎日パンを持ち帰る少女" 第2話
放課、芳は帰り支度をしている美を呼び止めた。
「原さん、しいい?」
美の肩が、わずかにいた。
教にはもう数しか残っていなかった。芳はほかの児童がていくのを待ってから、美の机の横にしゃがんだ。
「最、のパンを持って帰っているでしょう」
美は線をへ落とした。
「……ごめんなさい」
「ってるんじゃないのよ。ただ、どうして持って帰るのかなとって」
美は唇を結んだまま、しばらく答えなかった。
芳は急かさなかった。
やがて美が、さな声で言った。
「おじいちゃんに見せるためです」
芳はわず聞き返した。
「見せる?」
「はい」
「べてもらうためじゃなくて?」
美は首を横に振った。
「見るだけです」
それ以は何を尋ねても、美は答えようとしなかった。
帰り際、美は布鞄を胸ので抱えるようにして教をていった。そのには、今も半分だけ残したコッペパンが入っている。
芳は誰もいなくなった教にち、しばらく扉の向こうを見つめていた。
貧しいから持ち帰るのではない。
腹を空かせた弟へ渡すのでもない。
祖父に「見せる」。
たったそれだけの答えが、かえって芳の胸にさな違を残した。
翌週から庭訪問が始まった。学から児童のまではいところで数分、いでは田畑のを20分以歩かなければならず、芳は児童名簿と簡単な図を鞄に入れて毎町を歩いた。
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築の団もあれば、昔から続く農もあり、同じ教に通う子どもたちの暮らしが驚くほど違うことを改めてじさせられた。
原を訪ねたのは、曇り空の曜だった。
学から歩いて15分ほどの細いを曲がった先に、さな造平があった。古いではあったが庭にはほうきの跡が残り、軒には洗ったぬぐいや子どものシャツがきれいに干されている。玄関脇の植鉢には赤いゼラニウムが咲いていた。
戸を叩くと、美の母親である節子がすぐにてきた。
「まあ、田先。どうぞ、こんなところまで」
節子は30代半ばくらいで、し疲れた顔をしていたが、なりはきちんとしていた。芳を茶のへ案内すると、急須に茶葉を入れながら「散らかっていてすみません」と何度もをげた。
部の隅では、6歳になる美の弟・勝男が聞ので積みを並べていた。しれた畳のには、髪をく刈った老が胡をかき、煙盆の横で聞を読んでいる。彼が美の祖父、原正蔵だった。
芳が挨拶をすると、正蔵は聞から目だけをげた。
「先か」
「はい。美さんの担任の田です」
「いつも世話になっとります」
言葉は丁寧だったが、がいいというじではなかった。頬はこけているものの背筋はに伸び、70歳い齢にしては目つきが鋭かった。
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庭訪問らしく、最初は学での様子について話した。美は勉もよくでき、友関係にも特に問題はないことを伝えると、節子はほっとしたように笑った。
「ではあまり学の話をしないものですから。先に迷惑をかけていなければいいんですが」
「とてもよくやっていますよ。掃除も係の仕事も真面目ですし」
そこまで言ってから、芳はしを置いた。
「ただ、つだけ気になっていることがありまして」
節子のが止まった。
「何でしょう」
「のパンを、毎のように持って帰っているようなんです」
節子の表がすぐに曇った。
「ああ……」
その反応を見ただけで、母親も事をっているのだと分かった。
「申し訳ありません。美にはやめなさいと言ったこともあるんですが」
「学として叱りに来たわけではありません。ただ、教で気づいている子もいるので、何か事があるのなら私もっておいた方がいいといまして」
節子が答えようとした、部の隅からい声がした。
「わしが持ってこいと言った」
芳は正蔵の方を見た。
老は聞を畳み、こちらをまっすぐ見ていた。
「美にですか?」
「ああ」
節子が困った顔をした。
「お父さん……」
「隠すようなことじゃなかろう」
正蔵は煙盆のを箸でならしながら続けた。
「この子がな、学じゃ毎パンがると言うんだ。
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