"毎日パンを持ち帰る少女" 第3話
だから本当なら持って帰って見せろと言った」
芳は、すぐにはを理解できなかった。
「パンがることを確認するために?」
「そうだ」
「については、学から献表もお配りしていますが」
「には何とでもける」
節子が慌てて父をたしなめた。
「先にそんな言い方しなくてもいいでしょう」
しかし正蔵は気にする様子もなかった。
「学が悪いと言ってるんじゃない。子どもに毎パンをわせるなんて、そんなうまい話があるかとっただけだ」
芳は戸惑った。
昭38の今、学は珍しいものではなくなりつつあった。なくとも桜ヶ丘学では毎がており、パンも週の半で提供されている。
しかし正蔵には、それがどうしても信じられないらしかった。
その、芳は茶箪笥のに目を留めた。
聞のに、乾いたコッペパンがつ置かれていた。半分ほど残ったパンで、表面はくなり、端がし反り返っている。
「それは……」
芳が見ると、節子が恥ずかしそうに笑った。
「昨、美が持って帰ってきたものです」
「召しがらないんですか?」
「父は見ればそれでいいと言って、毎回置いておくんです。次のには私が片づけますけど」
芳は正蔵へ線を戻した。
「せっかく美さんが持って帰ってくるのに、べないんですね」
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正蔵は眉を寄せた。
「孫の昼飯を寄りがってどうする」
その答えはもっともだったが、それだけでは説できないものが残った。
「では、見るだけで?」
「ああ」
「毎?」
「毎だ」
正蔵はそれ以話したくないというように、再び聞を広げた。
庭訪問を終え、芳が玄関へ向かうと、節子がまで見送りにてきた。戸からしれたところで、節子は声で言った。
「先、すみません。父は昔からし頑固で」
「いえ。でも、どうしてそこまでのパンにこだわるんでしょう」
節子は庭先の洗濯物を見ながら、しばらく考えた。
「戦争の頃のことが関係しているんだといます」
「戦争?」
「父はあの頃、べ物でずいぶん苦労したらしくて。でも詳しいことは、私にもほとんど話さないんです」
「節子さんにも?」
「はい。聞こうとするとるんです」
が吹き、物干し竿のぬぐいが斉に揺れた。
「だから私も、美がパンを持って帰るくらいならとって黙っていました。でも学で変な噂になっているなら、もうやめさせた方がいいでしょうか」
芳はすぐには答えなかった。
茶箪笥に置かれた乾いたパンが、なぜかかられなかった。
「もうしだけ、様子を見ましょう」
そう答えた自分自にも、その理由はまだ分かっていなかった。
5に入ると、美がパンを持ち帰っていることは、52組のほとんどの女子がるようになっていた。
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誰かが面半分に言いふらしたわけではなくても、毎同じことをしていれば自然と目につく。男子のにも「原んちはパンを買えないらしい」とにする者が始めた。
芳はそのたびに注したが、子どもというものは教師ので黙っても、帰りではまた別の顔を見せる。あるの放課、芳が職員へ戻る途、昇の裏から数の声が聞こえてきた。
「今も持って帰った?」
「持ってたよ」
「やっぱりが貧乏なんじゃない?」
「うちのお母ちゃん、パンで買えば10円もしないって言ってたぞ」
「じゃあ何で毎?」
その輪のに、美はいなかった。
芳はすぐに声をかける代わりに、しれたところで子どもたちを見ていた。悪だけで話している者はなく、むしろ「理由が分からないこと」に興を持っているだけなのだろう。しかし当事者にとっては、好奇も悪も同じように傷つくことがある。
翌の、芳は美のくを通った。
美はいつものようにパンを半分べ、残りをで包んでいた。
「今は全部べてもいいのよ」
芳が声で言うと、美はし驚いた顔をした。
「でも、おじいちゃんが」
「持って帰らなかったらる?」
「るというか、聞きます。今はパンじゃなかったのかって」
「毎、楽しみにしているの?」
美は首を傾げた。
「楽しみじゃないといます」
「じゃあ、どういうじ?」
女はパンを包むを止め、し考えた。
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