"毎日パンを持ち帰る少女" 第8話
ともわなかった。
「おじいちゃんも、今はこの代にいるよ」
美がそう言うと、正蔵はを止めた。
節子も黙った。
「私だけじゃないよ」
美は続けた。
「おじいちゃんも今は毎ご飯べられるでしょう?」
正蔵はしばらく孫の顔を見ていた。
そして、さく笑った。
「そうだな」
その夜、正蔵は残ったパンを聞へ置かなかった。
最まで全部べた。
翌週の、美智子が突然美に尋ねた。
「原さん、最パン持って帰らないね」
美のが止まった。
周囲にいた女子たちも何となくを傾けた。
以なら美は黙ってしまっただろう。
しかしそのはし違った。
「うん。もういいの」
「弟にあげなくていいの?」
「弟じゃないよ」
美智子は気まずそうな顔をした。
「じゃあ誰にあげてたの?」
美はしばらく迷ってから答えた。
「おじいちゃん」
「やっぱりおじいちゃんがべてたの?」
「べてないよ」
「じゃあ何で?」
周囲の線が集まった。
美は芳を見た。
芳は何も言わず、さく頷いた。
「見るため」
案の定、何かの子どもが議そうな顔をした。
「見るだけ?」
「うん」
「何で?」
美は度息を吸った。
「昔、おじいちゃんが子どもの頃じゃなくて、お母さんがさかった頃、べ物が全然なかったんだって」
教が静かになった。
「だから学で毎パンがるって言っても、最初は信じられなかったの」
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美智子が首を傾げた。
「でもパンさんあるじゃん」
「今はね」
美は答えた。
「でも昔はなかったんだって。おがあっても買えないもあったって」
社会科で戦争や戦について習い始めていた子どもたちにも、「べ物がなかった」という言葉はどこかい話だった。空襲や焼け跡の写真は教科で見ていても、自分のの茶箪笥にパンがあることと、その歴史がつながっているとは誰も考えていなかった。
美智子がさく言った。
「じゃあ原さんち、貧乏だからじゃなかったの?」
美はしむっとした。
「最初から違うって言ったじゃない」
「ごめん」
予に素直な言葉だった。
美智子はし考えてから、自分のコッペパンを見た。
「私、昨半分捨てた」
誰かが言った。
「俺も、よく残す」
「牛乳まずいからいつも残す」
芳は教卓から子どもたちを見ていた。
ここで「べ物を切にしなさい」と説教することは簡単だった。
しかし、それでは正蔵の話が単なる徳教材になってしまう気がした。
そのの5目は社会科だった。
芳は予定していた教科を閉じた。
「今はし、みんなのおの昔の話を考えてみましょう」
黒板にきくいた。
〈昭20〉
「今から18です」
子どもたちがざわついた。
18という数字は、彼らにとって「昔」と言うほどくない。
「先が10歳よりしだった頃です」
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「先もうまれてたの?」
男子が声をげ、教に笑いが起きた。
芳も笑った。
「まれてましたよ。残でした」
それから、戦争直の糧事について話した。
配。
買いし。
芋。
すいとん。
米がに入らない。
親が自分の分を子どもへ渡したこと。
芳自も幼い頃の記憶をし話した。
「先も、いご飯を毎べられるわけではありませんでした」
子どもたちは驚いた。
「先も?」
「そうよ」
「じゃあパンなんてなかった?」
「今みたいにはなかったわね」
美は静かに聞いていた。
授業の最、芳はつだけ言った。
「みんなが今べたは、昔から当たりにあったものではありません」
教のろには、空になったパンかごが置かれていた。
「でも、だから絶対残すなと言いたいわけではないの。べられないもあるし、体調が悪いこともあります。ただ、自分にとって当たりのことが、誰かにとってはみたいなことだった代もある。それだけ覚えておいてください」
そのから、美のパンについて噂する者はいなくなった。
7の初め、授業参観がわれた。
教のろには母親たちが並び、何かの父親も仕事を抜けて姿を見せていた。美の母・節子も来ていたが、その隣にはいがけない物がっていた。
正蔵だった。
紺の古い着を着て、髪をいつもより丁寧に撫でつけている。
美は授業に気づき、何度もろを見そうになった。
授業が終わると、正蔵はすぐに帰ろうとした。
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