"消された合格通知" 第2話
母は交通費を封筒に入れ、父には内緒で駅まで送ってくれた。
否発表から週たっても通は来なかった。学へ話しようとした直に、父は「落ちたが催促するな。みっともない」と言った。その頃、伯父が急し、父はでを切り盛りしていた。
「を助けてくれ。来また受ければいい」
はになり、はになった。父は度も「来」の話をしなかった。
「どうして隠した」
「あの、おにていかれたらは潰れていた。伯父さんの借も残っていた。族なら分かるとった」
「分かるかどうか、なぜ俺に決めさせなかった」
昭は初めて顔をげた。
「の子どもに何が決められる。学へけばで百万くかかる。特待でも活費は別だ。だけで賃は払えない」
「だから落ちたことにしたのか」
「結果として、おは職になった。学へかなくても腕はついた。何が満なんだ」
直は父を殴りたくなった。しかし拳を握ったまま、母を見た。
「母さんはっていたのか」
子はい、返事をしなかった。やがてレジのから古い缶箱をした。には直が受験に使った幹線の半券と、学案内の切り抜きが入っていた。
「格通を最初に受け取ったのは、私」
「辞退届をいたのも?」
「いたのはお父さん。でも、投函したのは私よ」
広告
母の声は震えていたが、直は慰めなかった。
「話が来た、父さんに代わったのも母さん?」
「あなたが厨にいたから……」
「俺は毎、郵便受けを見ていた」
子が泣き始めた。昭は「母さんを責めるな」と言ったが、直は余計に腹がった。父の命令に従った母も、真実を隠した。が夫婦として守ったものの代を、息子ので払っていた。
その夜、直は初めての鍵を作業台へ置いた。
「から来ない」
昭はで笑った。
「したばかりだぞ。百個の予約はどうする」
「商品発責任者に作ってもらえばいい」
拓が慌ててへ入った。「兄さん、俺は格通のことはらなかった。本当にらなかった。でも今辞めたら、だけじゃなく従業員が困る」
「週だけ引き継ぐ。そのの残業は記録する。レシピ帳も俺個の物は持っていく」
昭がちがった。
「で作った物はの物だ」
「その話は、で面でする」
直は自宅階へがり、類を旅鞄へ詰めた。両親と同居を続けてきたのは、父の腰痛と母の持病のためだった。だが、その夜は駅のビジネスホテルを予約した。
をる直、母が追いかけてきた。
「どこへくの」
「まだ決めていない」
「せめて落ち着いてから。族でしょう」
直は振り返った。
「族だから黙って奪っても、いつか分かってくれる。
広告
父さんも母さんも、ずっとそれを言ってるんだよ」
ホテルへ着いた直は、学代の友に連絡しようとしてやめた。も気づかなかった自分を笑われる気がしたからだ。
だが、翌朝にはへかなければならない。引き継ぎを約束したのは父のためではなく、何もらず働くのパートと予約客のためだった。
直はノートについた。《っているに署名しない》《の約束をしない》《辞める理由と、を困らせたい気持ちを混ぜない》。自分のりが正しいからといって、すべてのが正しくなるわけではない。父と同じやり方をしないための、最初の規則だった。
週の引き継ぎは、予より静かだった。昭は必な指示しかせず、子は弁当を作っても直が受け取らないと分かると、目から置かなくなった。
拓だけが何度も謝った。しかし、の旗から自分の名をそうとはしなかった。
「広告はもう印刷した。テレビの放送も止められない。今変えたら、が嘘をついたと自分で認めることになる」
「嘘をついたんだろ」
「俺が決めたわけじゃない」
「でも、おの名で売ることを受け入れた」
拓は黙った。らなかったことと、利益を受け取らなかったことは同じではない。
直は自分のレシピ帳を理した。自宅で試作した配、材料費を自分で払った記録、友に試してもらったメッセージが残っている。
方、の営業に改良した程もい。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
離婚したら140万円の請求が来た
結婚して7年。待ち望んだ妊娠が分かったさやかは、夫の勇気へ知らせるため、体調の悪さをこらえながら豪華な夕食を用意した。 ところが、義姉から「夫のお金を浪費している」と責められても、勇気は妻をかばおうとしなかった。それどころか、さやかが「自分のお金で買った」と反論しただけで、彼はあっさり告げる。 「そんなことを言い続けるなら、離婚しよう」 さやかは離婚を承諾し、初めて妊娠を伝えたうえで、その日のうちに実家へ戻った。すると3日後、これまで彼女が負担してきた義姉の息子の塾代、約140万円の請求書が勇気のもとへ届く。 慌てて支払いを求める夫に、さやかは静かに告げた。「もう私とは関係ありません」。しかし彼らはまだ知らなかった。さやかが3年前から、義姉への送金記録と、家族の会話を記録した音声を残していたことを――。兄弟姉妹|絶縁|金銭問題1.7万字5 500 -
完結第11話
姑が剥がした私の名前
小さな菓子工房《灯菓》を営む私は、町内会の敬老会に出す96個のプリンを正式な注文として受けた。 しかし当日の朝、冷蔵庫の中からプリンがすべて消えていた。持ち出したのは義母・富美子。しかも彼女は私の店名と表示ラベルを剥がし、自分の名前を貼って「会長手作り」として配ろうとしていた。 保管温度も、消費期限も、誰が責任を持つのかも曖昧なまま、プリンは高齢者たちの前に並べられる。私は必死に止めようとするが、夫は「母さんを悪者にするな」と私の腕をつかんだ。 その夜、敬老会の参加者が体調不良で搬送される。 原因は本当に私のプリンだったのか。義母は何を隠し、夫はどこまで関わっていたのか。 一枚の貼り替えられたラベルをきっかけに、嫁の仕事を“暇つぶし”と笑ってきた家族の本音が、静かに暴かれていく――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 836 -
完結第14話
帰国した僕を待っていたボロ家
7年間、アメリカで必死に働き続けた木村健二。 妻と息子、そして母のために仕送りを続け、岐阜の実家も新しく建て替えた。帰国の日、健二は家族が立派な新居で自分を待っていると信じていた。 しかし、そこで彼を迎えたのは母と兄夫婦だけ。妻・早苗と息子・勇気の姿は、家のどこにもなかった。 不審に思った健二が辿り着いたのは、町外れの川沿いに建つ古びたプレハブ住宅。そこには、やつれた妻と、破れた問題集を大切に使う息子の姿があった。 自分が送った大金は、どこへ消えたのか。 なぜ妻子だけが新居から追い出されたのか。 7年間信じてきた“家族”の裏側で、健二の知らない嘘と沈黙が静かに積み重なっていた――。夫婦|真相|親子関係2.0万字5 2838 -
完結第12話
息子の婚約者の母は、20年前の女だった
20年前、夫の不倫によって家を追われ、5歳の息子・健一を一人で育ててきたゆみ。昼も夜も働き続けた息子は医師となり、愛する女性との結婚を決めた。 両家の顔合わせの日、婚約者の母・恵子は、ひとり親家庭を遠回しに見下しながら、上品な笑みを浮かべていた。だが、ゆみの顔を見つめた瞬間、その表情が明らかに変わる。 恵子は、20年前にゆみの夫と関係を持ち、母子を雨の中へ追い出した張本人だった。 化粧室で2人きりになると、恵子は「子どもたちには黙っておきましょう」と口止めする。しかし、ゆみの鞄には、恵子の現在を調べた報告書が入っていた。 そこには多額の借金と不審な金銭の動き、そして「娘の婚約者が医師になった」と周囲へ話す恵子の姿が記されていた。20年前に家庭を壊した女は、今度は息子の人生まで利用しようとしているのか――。真実|親子関係|不倫1.8万字5 1 -
完結第11話
夫の実家は空き家だった
結婚して半年。32歳の若菜は、穏やかで誠実な夫・裕介と、静かな新婚生活を送っていた。 裕介の両親は長く海外で暮らしており、日本へ戻ったばかりだと聞かされていた。正月、仕事になった夫の代わりにお年賀を届けようと、若菜は以前教えられた義実家を一人で訪ねる。 しかし、家は人が暮らしているとは思えないほど荒れていた。隣人へ尋ねると、返ってきたのは信じられない言葉だった。 「そこは5年前から空き家ですよ」 混乱した若菜が住所を尋ねても、裕介は決して教えようとせず、贈り物の蟹も自分で届けると言い張った。ところが数日後、見知らぬ男女が突然マンションを訪れ、若菜へ笑顔で告げる。 「この前は高級な蟹、ありがとうね」 5年前から誰も住んでいない「夫の実家」と、若菜の名前を知る謎の男女。裕介はなぜ家族の存在を隠し、他人の家を自分の実家だと偽ったのか――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 599 -
完結第17話
葬儀代10万円を拒んだ叔父――17年後、空の封筒を持って私は戻った
1996年、15歳の黒川大樹は、母の葬儀代10万円を借りるため叔父・健造の屋敷で土下座した。しかし健造は大樹を泥へ蹴り落とし、父方の親族も全員背を向ける。救ってくれたのは、貧しい隣人・佐藤正一が差し出した茶色い封筒だった。母の遺品から、健造による借金と不動産取得の記録を見つけた大樹は、証拠を抱えて町を離れる。17年後、上場企業の社長となった大樹のもとへ、75歳の佐藤に2000万円が請求されているとの知らせが届く。故郷へ戻った彼が目にしたのは、泥の中で叔父に踏みつけられる恩人の姿だった。親子関係|金銭問題2.2万字5 1037 -
完結第11話
家族席から外された弟
父の還暦祝いと、実家の弁当店《味よし》創業三十周年を兼ねた宴席。 十年間、早朝から店を支えてきた次男の章平は、兄から冷たく告げられる。 「おまえは家族席じゃない。配膳が終わったら厨房に戻ってくれ」 看板商品の味を守り、配達先を増やし、病気の妻と娘のために考えた献立まで店に捧げてきた章平。だが、会場で語られる店の歴史に、彼の名前はなかった。 さらに兄が発表した新事業には、亡き妻のレシピから生まれた料理が、兄の功績として並んでいた。 悔しさをこらえて帰宅した章平は、冷蔵庫の上に置いていたはずの青いレシピノートが消えていることに気づく。 翌朝、店に現れなかった章平。 消えたのは一人の「手伝い」ではなかった。 実家の弁当店を三十年支えてきた、本当の味そのものだった――。兄弟姉妹|相続|金銭問題1.6万字5 985 -
完結第14話
3人の息子は、夫の隠し子だった
離婚届に署名した直後、夫・総一郎は私に言った。 「3人の息子の中から1人選べ」 名門・斎藤家の妻として、5年間、私は3人の息子を育ててきた。けれど彼らは、私の実子ではなかった。夫の愛人が産んだ子どもたちだったのだ。 そして、家の中でただ一人、冷たく扱われていた娘・小春だけが、私にとって守るべき存在だった。 「あなたの隠し子なんて、1人もいらない」 そう告げて娘の手を取った瞬間、斎藤家が隠してきた嘘が崩れ始める。 親子鑑定書、偽造された書類、奪われかけた親権、そして夫がどうしても小春を手放そうとしなかった本当の理由。 離婚は終わりではなかった。 娘を守るため、そして自分の人生を取り戻すための、静かな反撃がここから始まる――。夫婦|親子関係|不倫2.1万字5 761 -
完結第19話
「母さん、車に乗れないから来なくていい」――家族に捨てられた母と消えた1200万円
正月10日、72歳の春子は息子一家と焼肉へ行くはずだった。ところが玄関で息子から「母さん、車に乗れないから来なくていい」と告げられる。5人乗りの車には、荷物をどかせば十分座れる場所があった。それでも春子は何も言わず、家族を見送る。直後、共有カレンダーに表示された翌日の予定を見て、表情が変わった。《母・施設送迎》《通帳と実印を確認。拒否したら部屋を探す》。さらに、本人の知らない老人ホームの資料、偽造された介護申請書、1860万円と査定された自分名義のマンションまで見つかる。春子は通帳、実印、権利証を鞄に詰め、その夜、新幹線の指定席12Aに座った。家族が母を“病人”に仕立てて財産を動かそうとしていた計画が、そこから崩れ始める。嫁姑|親子関係2.6万字5 3616 -
完結第16話
午前2時、義母に追いやられた離れ
水野由香は、脳梗塞で倒れた義父・正一を3年間支え、死後も遺品と会社書類の整理を続けていた。夫が出張へ出た夜、義母から庭の古い離れで寝るよう命じられる。午前2時、家政婦の富子が「今すぐ逃げて」と駆け込み、直後に3人の男が窓を破った。狙いは由香の実印と遺贈辞退書。逃走中に残した26秒の録音が義母の嘘を崩し、亡き義父の遺言から25%の株式と黒い手帳が現れる。そこには18件、合計3,240万円へ続く赤い線が残されていた――。夫婦|親子関係2.2万字5 1893