みかん小説
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"27年目、妻は食卓を捨てた" 第10話

スマートフォンで作り方を調べ、醤油、砂糖、みりん、姜を鍋へ入れた。しかし加減が分からず、途で煮汁が減りすぎ、し崩れてしまった。

卓へすと、加代がべた。

「ちょっとが濃いわね」

その言葉を聞いた瞬、孝志のが止まった。

加代は美子が作った煮物へ「い」と言った。

自分も妻の料理をべながら、ほとんどにしなかった。

今、自分が1くかけて作った料理へ最初に返ってきた言葉が欠点の指摘だったことで、ようやくあのの美子がどんな気持ちだったのか、ほんのしだけ分かった気がした。

「母さん」

「何?」

「まず、いただきますくらい言おう」

加代は驚いたように息子を見た。

孝志は自分でもし恥ずかしかったが、箸を置いてわせた。

「いただきます」

加代もゆっくりわせた。

「いただきます」

たったそれだけのことを、自分たちは何忘れていたのだろう。

、彩佳が美子の部を訪ねた。

今度はおにぎりではなく、さな鍋を抱えていた。

「何を持ってきたの?」

「肉じゃが。作りすぎたから」

蓋をけると、し煮崩れたじゃがいもから甘いりがした。

「お母さんのには全然ならないけどね」

「同じじゃなくていいのよ」

子はそう言い、分の皿へ肉じゃがをよそった。

べてみると、し甘かった。

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けれど彩佳らしいだった。

「おいしいわ」

「本当?」

「うん。これは彩佳のね」

娘はし照れたように笑った。

、彩佳がぽつりと尋ねた。

「お母さん、今幸せ?」

子はすぐには答えなかった。

幸せという言葉はきすぎて、簡単には決められない気がしたからだ。

「朝起きたに、今何をしようって自分で考えられるの。それが嬉しいかな」

「そっか」

「だからたぶん、幸せなんだとう」

彩佳は静かに頷いた。

母がへ戻らないことを、もうしいとは言わなかった。

むしろ、戻らなくてよかったのかもしれないとさええるようになっていた。

もしあの、美子がまた台所へ戻り、族がしだけ反省したあと以活に戻っていたら、自分たちは本当のでは何も変わらなかったかもしれない。

は、失って初めて気づくことがある。

けれど、気づいたからといって、失ったものを必ず取り戻せるわけではない。

その代わり。

気づいたき方を変えることはできる。

その、美子は調理師試験の格通を受け取った。

封筒をいた瞬、しばらく文字を見つめたままけなかった。

自分の名

格。

たった文字が、こんなにも嬉しいとはわなかった。

最初に連絡したのは姉の由美子だった。

次に彩佳へメッセージを送った。

し迷ってから、翔太と匠にもらせた。

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からすぐに返事が来た。

《母さん、おめでとう。本当にすごいとう》

《今度、何かごちそうさせて》

昔なら、そんな言葉だけでも泣いていたかもしれない。

今の美子は、静かに笑ってスマートフォンを置いた。

、彩佳と翔太、匠の3が美子の部へ集まった。

婚以来、子どもたち全員が揃うのは初めてだった。

格祝いだから、今は俺たちが作る」

翔太が言いした。

台所では匠が噌汁を担当し、彩佳が煮物を作り、翔太は慣れないつきで魚を焼いた。途で匠が噌を入れすぎ、翔太が魚をし焦がし、彩佳は「もう、とも邪魔」と笑いながら台所をり回った。

子は伝おうとした。

けれど3から斉に止められた。

「今は座ってて」

その言葉を聞き、美子はさな卓へ座った。

しばらくして、料理が並んだ。

形もも完璧ではない。

それでも、3が自分のために作ってくれた事だった。

翔太がし照れながらいた。

「じゃあ……べようか」

誰からともなく、4わせた。

「いただきます」

声がなった。

子は瞬だけ目を閉じた。

の夜。

同じ言葉が誰のからもなかった卓で、自分は「もう必ないのね」と呟いた。

あのは、族とのすべてが終わったようにった。

けれど、本当に終わったのは、自分だけが犠牲にならなければ成りたない族の形だったのかもしれない。

失ったものは戻らない。

孝志と再び夫婦になることもない。

27をやり直すこともできない。

それでも、子どもたちはしずつ、自分のしい関係を作ろうとしている。

子は翔太が焼いたし焦げた魚をにした。

「どう?」

そうに聞かれた。

子は笑った。

「おいしいわ」

「焦げてるけど?」

「焦げてても、おいしい」

今度は全員が笑った。

誰もテレビを見ていない。

スマートフォンも卓には置かれていない。

誰かが料理を運び、が当然のようにべるだけの所でもない。

それぞれが作り、それぞれが言葉を交わし、誰かのを当たりだとわない。

子が27欲しかった卓は、皮肉にもあのてから初めてまれたのだった。

事を終える頃、彩佳が母へ向かって笑った。

「お母さん、ごちそうさま」

翔太と匠も続いた。

「ごちそうさま」

子は3の顔を順番に見た。

胸の奥がじんわり温かくなった。

「はい。どういたしまして」

それからし考え、笑いながら言い直した。

「でも今は、みんなが作ってくれたんだから。私の方こそ、ごちそうさまでした」

窓のではの夕暮れがゆっくりとを包んでいた。

卓のにはし焦げた魚と、形の崩れた煮物と、噌のし濃い噌汁が残っている。

完璧な料理ではなかった。

けれど、美子にとっては27番温かい卓だった。

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