"夜勤明けに締め出された私――15分後の「さようなら」" 第9話
私の名で契約する部
婚の話がまとまるまでには、そこから数かかかった。
勤務を終えて部へ帰り、向先から届いた類を読む。分からない項目には印を付け、次の休に質問する。婚姻の預貯や別居に伴う費用について、互いに資料をし、取り決めを詰めていった。
通帳の数字を確認していると、結婚した頃の買い物をいすことがあった。2で選んだ寝具。拓也が持って帰ってきた、しい炊飯器。初めから何もかも嫌だったわけではない。それでも、その記憶を理由に、あの玄関へ戻ろうとはわなかった。
拓也からの返答が、約束のを過ぎても届かない期もあった。
「もうしを置けば、気持ちが変わるのではとおっしゃっています」
向先からそう聞いた、私は机の端に置いた勤務表を見た。しいの夜勤にも、もう何度か入っていた。
「待っているも、私はここで暮らしています。確認に必なは取ります。でも、戻るかどうかを考えるためには待ちません」
次に返答を求めるを決めてもらい、そのはそこで類を閉じた。台所では、炊飯器の保温ランプがっていた。自分がべる分のご飯が、ちゃんと残っている。茶碗によそいながら、ようやく空腹に気づいた。
最終な取り決めを確認した、事務所の机には、拓也が署名した婚届が置かれていた。
広告
向先との内容を1つずつ確かめ、私はペンを持った。自分の欄をき終えるまで、拓也から何か連絡が来るのではないかと、鞄のが気になった。
話は鳴らなかった。
「届が済んだら、名字を戻す続きもめます」
声にすと、向先が頷いた。私はいた文字に抜けがないか確かめ、ペンに蓋をした。
、役所で届を終え、へた。歩には、昼休みのたちがき交っていた。誰かとぶつかりそうになって脇へ寄り、しばらくそのでっていた。
泣くつもりはなかったのに、鞄からハンカチをした。
7を、きれいないに直すことはできない。結婚したの私に、全部無駄だったとも言いたくなかった。今の私が終わらせた。それだけは、誰かに決めてもらわずに済んだ。
病院にも必な届けをすと、しばらくしてしい名札を渡された。
「桐さん。これでっているか確認してね」
相馬師に言われ、私は透なケースの文字を指でなぞった。
「はい。桐真由です」
制に付け直すと、しだけ位置が斜めになった。鏡ので直していたら、廊から呼ばれた。まだ慣れない名字に瞬遅れて返事をし、私は仕事へ戻った。
拓也が実をたのは、父親と決めた5かの期限を迎えるしだった。
修さんから届いた連絡は、いものだった。
広告
《今、引っ越しが済みました。初期費用の部はこちらが貸し、借用に返済のと額をきました。真由さんに何か頼むことはありません》
その、夜子さんとで昼を取った、拓也が賃を抑えた1用の部へ移ったことを聞いた。以のようなを続ける余裕はなく、休には洗濯と買い物を済ませているらしい。
「悦子さん、真由さんなら夜勤があってもできていたのに、って言ったのよ。だから私、できていたんじゃなくて、させていたんでしょうって返したわ」
夜子さんは箸を置き、私を見た。
「ごめんね。こんな話、もう聞きたくなかった?」
「丈夫です。でも、拓也の暮らしの相談は、私は受けられません」
「うん。私も、あなたに何とかしてとは言わない」
私は頷き、めないうちに噌汁をんだ。彼が今している事は、誰かに褒めてもらうためのものではない。自分が暮らすために必なことだった。
修さんの単赴任が終わったのは、それからもなくだった。帰宅の話で、の支払いを悦子さんと緒に確認し、自分も買い物と夕作りを始めたと聞いた。
「今までのようにはおを使えないと、悦子は文句を言っている。でも、2の収入で払えるように考えるのは、私たちの仕事だから」
義母が納得したという話ではなかった。
けれど、私に10万円を入れて解決してほしいという話でもなかった。
「それと、今は会うとしてもにしよう。あのへ来るようには言わない」
「ありがとうございます」
そう答えた、私はようやく、修さんと会うことと、あのの嫁に戻ることを分けて考えられた。
くむ部を決めたのは、そのの終わりだった。賃は7万5000円。病院まで自転で通え、寝の窓には、昼のを遮るカーテンを掛けられる。
内見では、をひねり、収納をけ、玄関の鍵を自分で回させてもらった。産会社のは、私がもう度確かめるも、急かさずに待ってくれた。
契約の氏名欄で、私は瞬だけを止めた。
もう、柏とく必はない。
桐真由とき、緊急連絡先などの必な欄を順に埋めた。最まで確認して顔をげると、担当のが鍵の受け渡しを尋ねた。
私は帳をいた。勤務のないに、さな丸を付けた。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
251840円の正月料理を持ち去った義母
結婚以来9年間、佐伯直樹の妻・由衣は、義母・久江に命じられるまま親戚一同の正月料理を準備してきた。今年の支払額は25万1840円。ところが大晦日、冷蔵庫から料理がすべて消える。防犯カメラに残っていたのは、合鍵で侵入し、保冷箱を弟夫婦宅へ運び出す久江の姿だった。それでも久江は由衣に買い直しを命じる。直樹が領収書と録音を保存すると、今回の持ち去りだけでなく、正月に費やした累計167万8000円、さらに両親へ送り続けた毎月6万円の意外な行方まで浮かび上がり始める。兄弟姉妹|嫁姑|親子関係|金銭問題2.6万字5 525 -
完結第14話
母に買った家を狙う婚約者
「結婚前に母親へマンションを買うなんて、嫁としての自覚がないわ」 未来の姑は、私が自分で貯めたお金の使い道まで責め始めた。 婚約者も「結婚後は僕たちの家庭を第一にして」と母親の味方をした。 私は怒らず、静かに尋ねた。 「分かった。じゃあ結婚後は、お互い自分の親には1円も援助しないってことでいいよね」 すると、2人の顔色が一瞬で変わった。 「それとこれとは話が別でしょう。長男の嫁なら夫の親を支えるのは当然よ」 私の母への援助は身勝手で、夫の両親への援助は当然らしい。 さらに姑は、母のマンションを「必要なら売ればいい」とまで言い出した。 なぜ私の預金額や退職金を、何度も確認していたのか。 なぜ婚約者は、突然結婚を急ぎ始めたのか。 私はバッグの中の茶封筒へ触れた。 そこには《最終通知》の文字と、約3000万円という金額。 そして婚約者の名前が記された、もう1枚の書類が入っていた。嫁姑|夫婦|相続|金銭問題2.0万字5 298 -
完結第10話
27年目、妻は食卓を捨てた
「……もう、必要ないのね」 27年間作り続けた夕食を、家族5人はスマホを見たまま無言で食べた。 「いただきます」も「おいしい」も、誰の口からも出なかった。 翌朝、私が食卓に残したのは一枚のメモだけ。 《今日から、自分のことは自分でお願いします》 夫は鼻で笑い、私が困って戻るよう家族カードまで停止した。 「パート代だけで、一人で暮らせるわけがない」 ところが3日たっても、私は助けを求めなかった。 家族が食事や洗濯、義母の薬の管理に困り始めた頃、娘が台所の奥で古いノートを見つける。 表紙には《家族のこと》。 そこには27年間、誰にも気づかれなかった私の記録が残されていた。 さらにノートから落ちた封筒には、夫が想像もしなかった書類が入っていた。 《常勤職員登用に関する雇用条件通知書》――返答期限は、今日だった。嫁姑|夫婦|親不孝1.6万字5 924 -
完結第12話
母親ではないと言われた日
「あの人は本当の母親ではありません」 小学5年生の授業参観で、姑・光江は教室中に聞こえる声で、継母の佳奈恵を否定した。 理子が5歳で実母を亡くしてから、佳奈恵は6年間、食事や通院、学校生活を支えてきた。それでも夫の俊一は「母さんに悪気はない」と繰り返すだけだった。 翌朝、佳奈恵は学校から一本の電話を受ける。理子の緊急連絡先が佳奈恵から光江へ変更され、その書類には俊一の署名まであった。 さらに姑は、英語教室や私立校への転校まで、本人に黙って決めようとしていた。 家族会議の日、11歳の理子は青いノートを抱えて現れた。表紙には《勝手に決められたこと》――そこには、祖母だけでなく父が娘へ強いてきた「我慢」が、2年分の日付とともに記されていた。因果応報|嫁姑|親子関係1.7万字5 597 -
完結第11話
「籍を抜いてから行け」と言われた嫁
「実家へ帰りたいなら、籍を抜いてから行きなさい」 母を亡くしてわずか1か月。初盆のため3日間だけ帰省したいと頼んだ里見に、姑は離婚を迫った。夫の浩司も妻を守らず、「少しは空気を読め」と目をそらす。 結婚して20年、家事と義父の会社の経理を無償で支えてきた里見は、静かに「分かりました」と答え、その日のうちに家を出た。 彼女が持ち出したのは、亡くなる直前の母から託された茶色い封筒だった。中には、吉沢家が暮らす家の土地が、実は母の名義であることを示す書類が入っていた。 さらに不動産会社を訪ねた里見は、母が入院していた間に、その土地を売ろうとした人物がいたことを知る。偽造された委任状には姑の筆跡。そして売却代金の入金先には、妻へ何も知らないふりをしていた夫・浩司の名前が記されていた――。嫁姑|絶縁1.6万字5 2465 -
完結第11話
「昔みたいに頼むよ」と元夫は言った
離婚から6年後、48歳の真紀は、介護付き有料老人ホーム《こもれび館》で、元夫・隆弘と元姑・澄江に再会した。 かつて澄江の介護を押しつけられ、仕事まで辞めた真紀。しかし離婚後に資格を取り、今では施設運営責任者として、職員の勤務や入居契約、事故対応を統括していた。 それでも2人は、真紀を見て「まだ老人の世話をしているの」と笑い、昔のように澄江の介護を任せようとする。真紀は身内だった立場を理由に入居判定から外れ、公平な手続きを進めようとした。 ところが提出された入居相談票には、真紀が知らないうちに、緊急時の《主介護者》として現在の携帯番号まで記されていた。 誰が、離婚後に変えた番号を調べ、本人の同意なく介護者に指定したのか。調査を進めるうち、元夫がこの施設を選んだ本当の理由と、澄江にも知らされていなかった計画が明らかになっていく――。嫁姑|夫婦|介護1.6万字5 328 -
完結第11話
退職したら、双子を任された
「お義母さん、来月から双子を毎日お願いします」 38年間勤めた図書館の退職祝いで、嫁は私の前に銀色の合鍵を置いた。 認可保育園はすでに辞退すると連絡したという。 平日の朝8時から夕方6時半まで、3歳の双子を週5日預かれ――それが家族の決定だった。 夫も「退職したら暇だろう。孫の世話なら張り合いになる」と笑った。 誰一人、私の予定を尋ねようとはしない。 「断るなんて、孫がかわいくないの?」 長男に責められた私は、黙って鞄を開けた。 そして鍵の隣へ、家族には知らせていなかった1年間の雇用契約書を置いた。 勤務先は、北海道の小さな町の図書館。 開始日は来月1日。 「私は来月、北海道へ行きます」 凍りついた家族の前で、嫁が契約書をつかんだ――。嫁姑|裡の顔|親子関係1.6万字5 1089 -
完結第11話
夫が書いた私の退職届
「母さんの介護のため、明日これを会社へ出してくれ」 夫が食卓へ置いたのは、56歳の私の名前が印字された退職届だった。定年まであと4年。けれど夫は、骨折した姑を自宅へ迎え、私が仕事を辞めて世話をすることを一人で決めていた。 私は退職を拒み、姑本人の希望を聞くよう求めた。しかし夫は「家族なら本音を分かってやるものだ」と言い、和室を介護部屋へ変える準備まで始める。 その夜、病院から一本の電話がかかってきた。姑が家族会議へ必ず私を呼び、先に確認してほしい書類があるという。 翌日、その書類から姑の口座より30万円が夫名義へ移されていたことが判明する。さらに和室の改修申込書には、姑の署名と280万円という金額が記されていた。 そして病院の家族会議で、夫が「妻は退職予定です」と説明した瞬間、姑は私を見ずに言った。 「私は、この家には帰らない」――その手には、息子がまだ知らない一枚の契約書が握られていた。嫁姑|夫婦|介護1.7万字5 506 -
完結第11話
離婚後、義母のカードを止めました
離婚成立から3日後の午前2時。涼子のもとへ、ハワイ旅行中の元姑・和子から怒りの電話がかかってきた。 「このクソ女! なんで私のカードが使えなくなってるの!」 和子が使っていたのは、涼子名義の家族カードだった。離婚後に解約したと伝え、「すみません、どちら様ですか?」と返した涼子に、和子は“エリート社員の息子”を捨てたことを後悔すると言い放つ。 だが元夫・健一は、3年前に一流企業を懲戒解雇されていた。その事実を隠したまま毎朝スーツで家を出て、借金を重ねながら母親への仕送りと豪華な旅行を続けていたのだ。 さらに涼子が見つけた600万円の保証契約には、何も知らない和子の名前と実印が使われていた。そして元夫が会社を追われた本当の理由を示す資料には、借金だけでは済まない不正の痕跡が残されていた――。嫁姑|第二の人生|絶縁1.6万字5 1767 -
完結第11話
夫の実家は空き家だった
結婚して半年。32歳の若菜は、穏やかで誠実な夫・裕介と、静かな新婚生活を送っていた。 裕介の両親は長く海外で暮らしており、日本へ戻ったばかりだと聞かされていた。正月、仕事になった夫の代わりにお年賀を届けようと、若菜は以前教えられた義実家を一人で訪ねる。 しかし、家は人が暮らしているとは思えないほど荒れていた。隣人へ尋ねると、返ってきたのは信じられない言葉だった。 「そこは5年前から空き家ですよ」 混乱した若菜が住所を尋ねても、裕介は決して教えようとせず、贈り物の蟹も自分で届けると言い張った。ところが数日後、見知らぬ男女が突然マンションを訪れ、若菜へ笑顔で告げる。 「この前は高級な蟹、ありがとうね」 5年前から誰も住んでいない「夫の実家」と、若菜の名前を知る謎の男女。裕介はなぜ家族の存在を隠し、他人の家を自分の実家だと偽ったのか――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 1880