"3年間隠していた清掃員の母に、院長が頭を下げた" 第3話
古い傷の、その奥で
初期の処置に反応し、血圧がわずかに持ち直した。血管科の医師が搬送能と判断し、監を続けたまま患者をCTへ運ぶことになった。
俺もベッドについて廊をんだ。輪がの継ぎ目を越えるたび、患者の指先に目を向けた。識はある。だが、その細い反応がいつ途切れるか分からなかった。
撮された画像が画面に並ぶと、医師の指が腹部のか所で止まった。
「ここです。以つないだ部分に瘤ができて、破れています。お腹の奥に血液がたまっている」
古い血管再建部の吻部にじた仮性脈瘤。その破裂が、急激な状態悪化の原因だった。
母の指摘と、画像がつながった。
医師はすぐ術へ連絡した。俺は入院の経過を理し、付き添ってきた担当者と通訳に声をかけた。詳しい説は執刀する医師がい、必な準備がんでいく。
「30の術が、関係していたんですね」
俺が言うと、血管科の医師は画面を見たまま頷いた。
「所はそうです。ただ、昔の術の良し悪しを、今この画像だけで決めることはできません。まず、この血を止めます」
術、母は確認を求められた範囲で、当の術式について覚えていることを伝えた。確かな部分は、確かだと言った。執刀医はそれを参考報として受け取り、目のの画像と照らしわせていた。
広告
母が患者に触れて何かを始めることはなかった。それでも、彼女の言葉を聞くために、医師が度を止めた。その景が俺には忘れられなかった。
術の扉が閉まったあと、母は廊の子に腰をろした。清掃の裾からのぞく靴は、踵の内側がし擦り切れていた。
「勤務先には、連絡したの?」
「責任者の方に伝えたわ。残りは引き継いでもらったから」
俺は自販でを買って渡した。母のには細かい皺があり、蓋を回す指の関節が目った。このがきな血管を縫い、患者の命をつないでいた。ついさっきまで、像したこともなかった。
「何もらなかった」
それだけ言うと、母はボトルを膝のに置いた。
「私も、あまり話さなかったからね」
優しい返事だったが、俺はそこに逃げ込んではいけない気がした。話してくれなかったことと、聞こうとしなかったことは同じではない。
呼びしを受けて持ちに戻り、処置と連絡を済ませてから、俺は再び術のへ向かった。窓のは暗くなり、昼はのかった廊にも、音がまばらになっていた。
数、執刀医がてきた。
「血は抑えられました。まだ集治療が必ですが、術は予定したところまで終えています」
母の肩から、ゆっくり力が抜けた。俺も子の背に置いていたをし、く息をついた。
広告
執刀医は母のでを止めた。
「以の再建を疑う報があったことで、確認を急げました。なご指摘でした。ありがとうございます」
母はちがってをげた。
「助けてくださって、ありがとうございました」
黒瀬もしれた所で報告を聞いていた。だが母のほうへ来ることはなく、端末を確かめながら病棟へ戻っていった。
翌朝、俺が勤務を終える頃、母がさな封筒を持って現れた。
「で、これを探してきたの。久先にも見ていただこうとって」
には、縁が黄ばんだ写真が入っていた。仮設の診療所らしい建物を背に、数の医療スタッフが並んでいる。その央に、髪をろでまとめた若い母がいた。
隣につ青は、今よりずっと細い久院だった。母のの担架には、顔の部を包帯で覆われた男性が横たわっていた。
裏返すと、国語の名と、30の撮がかれていた。母は写真の端を押さえ、担架の男性を見た。
「あの患者さんなら、退院したあと、私たちにをくださったはずなの」
そのに何がかれていたのか、俺はまだらなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
役立たずの僕が、上司を救った夜
入社4か月の工藤健太は、コピー機さえ満足に使えない「役立たず」。誰にも期待されない毎日は、過去の救援で人を失い、自分の力を恐れる彼にとって都合がよかった。 ただ一人、厳しい上司の白鳥凛花だけは、失敗を叱っても、彼の働きまで否定しなかった。 ある夜、健太は男3人に囲まれた凛花を助ける。制圧まで、わずか10秒。隠していた力が露わになったその夜から、二人の日常は変わり始める。 男たちが口にした亡父の名。25年前の恩と、病室で交わされた約束。そして、救出現場を切り取った写真が、凛花を会社から追い出す証拠として出回る。 再び誰かを失うことを恐れる健太は、今度こそ、彼女の隣に立てるのか。職場逆転1.8万字5 140 -
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 3841 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 56 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 491 -
完結第11話
倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体
倒産寸前の「桐生デザイン事務所」に、五歳の娘を連れた清掃員志望の女性・高瀬さち子が現れた。履歴書には、東大大学院修了、一級建築士、大手設計事務所の元チーフという驚くべき経歴。しかし彼女は、二度と設計の仕事には戻らないと言い張る。娘の何気ない一言をきっかけに、事務所に小さな転機が訪れるが、さち子は図面に触れることさえ恐れていた。彼女が三年前に失ったものとは何なのか。そして、過去の事故に隠された真実とは。再起をかけた小さな事務所の逆転劇が始まる。職場逆転|人生逆転|第二の人生1.6万字5 293 -
完結第14話
50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客
父から受け継いだ居酒屋「二鉄」を守るため、会社を辞めた32歳のテツ。廃業寸前の店に舞い込んだのは、元同僚・真治からの50人貸切予約だった。ところが宴会開始30分前、真治は突然の全員キャンセルを告げ、支払いまで拒否する。大量の料理を前に途方に暮れるテツ。そのとき、「今から50人入れますか?」と一人の青年が駆け込んできた。職場逆転|裡切られた|怒り|金銭問題|修羅場1.7万字5 1768 -
完結第18話
時給1111円で高齢者5人を雇った結果
父から受け継いだラーメン店が、大手チェーンに客を奪われ閉店寸前。店主の赤坂明のもとへ、職を失った高齢者五人が「働かせてくれないか」と訪ねてきた。明は時給1111円で全員を採用する。すると、元工場勤務、教師、タクシー運転手など、五人が長年培ってきた経験が思いがけない力を発揮し、店は少しずつ活気を取り戻していく。しかし、その変化を面白く思わない競合店の店長が、次々と妨害を仕掛け始める。感動|職場逆転|人生逆転|金銭問題2.1万字5 1232 -
完結第10話
拾った財布で泥棒扱い――5万円の濡れ衣と反撃
九歳の娘を育てながら、商社の経理部で働く森田咲。ある朝、会社のロビーで財布を拾い、管理員立ち会いのもと持ち主の女性主任へ返却した。 ところが直後、主任が突然押しかけてきた。 「財布に入っていた五万円がない! あなたが盗んだんでしょう!」 同僚の前で泥棒扱いされ、母子家庭であることまで侮辱された咲。しかし彼女は取り乱さず、一枚の受領書を取り出す。 証拠によって反撃を始めた咲だったが、会社はなぜか彼女を重要業務から外してしまう。やがて、財布の紛失騒動の裏に隠された別の疑惑が浮かび上がり――。職場逆転|裡切られた|裡の顔|金銭問題1.8万字5 1334 -
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 567 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 1003