"昭和31年、給料日に消える父の秘密" 第3話
「うん」
ランドセルを置き、教科を2冊だけ提げへ入れた。
そしてへ向かった。
精の正が見える所に、さな煙があった。その横の柱のへ隠れ、のを見張った。
午5半。
サイレンが鳴った。
男たちが次々にてくる。
「お疲れさん」
「な」
そんな声がび交う。
作業姿のに父がいた。
正は同僚2と何か話していた。
しばらくして別れ、歩き始める。
普段ならへ曲がる。
へ続くだ。
しかしそのはへ曲がった。
恵美の胸がきく鳴った。
やっぱり何かある。
し距を空けて追いかけた。
父は酒へはかなかった。
映画館のも通り過ぎた。
女のと待ちわせる様子もない。
商を抜け、古いが続く裏通りへ入っていく。
恵美は角を曲がるたび、父に気づかれないようを隠した。
やがて正は軒ののでを止めた。
の剥げたの板。
《福田古物》
窓の向こうには古の腕計、ラジオ、具、背広、カメラ、万などが雑然と並んでいた。
恵美はわず息を止めた。
父はにさな包みを持っていた。
朝、をるには気づかなかったものだ。
父はへ入った。
恵美は向かいのへ移し、ガラス越しにを見た。
主らしい老が包みをく。
からてきたのは、黒い万だった。
父が昔から使っていた物だ。
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賀状をくも、学の類へ署名するも、その万を使っていた。
主はペン先を確認し、何か言った。
父が首を振る。
もう度話す。
やがて幣が数枚、父のへ渡った。
父はそれを財布へ入れた。
恵美ののが真っになった。
なぜ。
父は物を売っていた。
計も。
コートも。
具も。
全部ここへ持ってきたのだろうか。
父がからてくる。
恵美は慌てて物へ隠れた。
しかし正はへ向かわなかった。
さらに先へ歩いていく。
恵美は迷った。
もう分見た。
帰って母へ話せばいい。
けれど父がどこへくのか、どうしてもりたかった。
再び追った。
父が向かったのは、駅くの郵便局だった。
へ入り、しばらくしててくる。
次に米。
その次に薬局。
父はさな袋をつ買った。
恵美には分からなかった。
女のはいない。
酒もんでいない。
なのにへは帰らず、物を売り、何かの支払いをしている。
最に父はさな堂へ入った。
恵美はで20分く待った。
父がてきた、には何もなかった。
は8を過ぎていた。
もう追えない。
恵美は急いでへ戻った。
母は玄関で待っていた。
「何だとってるの!」
「ごめんなさい」
「千鶴ちゃんのお母さんから話なんてないから、まさかとって――」
母はそこまで言って、恵美の顔を見た。
「どうしたの」
「お母さん」
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恵美は息をえた。
「お父さん、物売ってる」
母の表が消えた。
「何?」
「今、ついてった」
「恵美!」
「古物さんに入ったの。万売ってた」
母が台所の子へをついた。
「万?」
「黒いやつ。お父さんの」
文子は何も言わなかった。
「それから郵便局と米にってた」
「米?」
「うん」
母は険しい顔になった。
その夜、正が帰宅したのは10過ぎだった。
引き戸がく。
「ただいま」
誰も返事をしなかった。
正が居へ入る。
ちゃぶ台のに文子が座っていた。
恵美もいた。
父は2の顔を見て、すぐ何かを察した。
「どうした」
母が言った。
「今、何を売ったの」
正の顔が固まった。
「何の話だ」
「恵美が見た」
正が娘を見る。
恵美はられるとい、体をさくした。
けれど父は鳴らなかった。
しばらく見つめた、さく息を吐いた。
「ついてきたのか」
恵美は頷いた。
母が続けた。
「計も?」
父は黙った。
「コートも?」
沈黙。
「革鞄も?」
「……ああ」
「具も?」
父は目を伏せた。
「そうだ」
文子の声が震えた。
「何に使ったの」
「文子」
「お酒?」
「違う」
「借?」
「違う」
「じゃあ何なの!」
正は返事をしなかった。
代わりに懐から茶い料袋をし、ちゃぶ台へ置いた。
「今分だ」
母は触れなかった。
「先に答えて」
正は袋を見つめた。
い沈黙の、
「料がりないんだ」
とだけ言った。
文子も恵美も、すぐにはが分からなかった。
「……何?」
正は聞もかなかった。
「会社が、から苦しいんだよ」
そして初めて、
川が半らなかったことを話し始めた。
精では、の頃からの注文が減っていた。
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