"昭和31年、給料日に消える父の秘密" 第6話
「芋は嫌か」
「2ならいい」
族が笑った。
議なことに、恵美はその頃のの方がしだけるかったようにじていた。
もちろん暮らしは苦しい。
学で友達がしい靴を履いていても、買ってほしいとは言えなかった。
費の集がづくと、母が帳面とにらめっこしている。
それでものから「らないこと」がつ減った。
6。
精ではさらに仕事が減った。
それでも正は毎朝へった。
やる仕事がないは、古い械の備をした。
社から、
「今も厳しい」
と言われる。
「分かりました」
正は答えるだけだった。
同僚の宅は辞めると言いした。
「女の兄貴が横浜の紹介してくれるって」
「そうか」
「正、おも探した方がいいぞ」
「18いるんだぞ」
「18いたから何だ」
宅は煙を吸いながら言った。
「が潰れたら18も19もねえよ」
正は分かっていた。
しかし体がかなかった。
見習い代からっているだった。
旋盤の音。
油の匂い。
昼休みに座る箱。
全部が自分のの部だった。
辞めることは、それまでの18が無駄になるような気がした。
7のある夜。
文子が聞いた。
「の仕事、探してる?」
正は聞から顔をげた。
「誰から聞いた」
「宅さんの奥さん」
「余計なことを」
「るところじゃないでしょう」
「はまだ潰れてない」
広告
「潰れてから探すの?」
正は黙った。
「正さん」
母は珍しく名で呼んだ。
「会社に義理があるのは分かるわ」
「義理じゃない」
「じゃあ何?」
「俺が辞めたら、もっと回らなくなる」
「あなたが残れば、私たちの活は回るの?」
父は言葉を失った。
恵美は隣の部で宿題をしながら、その会話を聞いていた。
母は以のように父の決断へ黙って従わなくなった。
父も以ほど「俺が何とかする」とは言わなくなった。
その代わり、話しいが増えた。
には喧嘩にもなった。
けれど何も何週も何もらされないことはなくなった。
7の料は7割。
8は6割。
川は休みにどこへもかなかった。
それでも正は、浩司を川へ連れていき、恵美には古本で10円の説を1冊買ってくれた。
「お使っていいの?」
恵美が聞く。
父は笑った。
「10円くらい使わせろ」
「でも」
「全部するのも駄目だ」
恵美は本を胸に抱いた。
以の父なら、
何も言わず自分の何かを売って、もっとい物を買っていたかもしれない。
今は、
「10円なら使える」
とにしている。
それだけで、恵美にはし嬉しかった。
8の終わり。
精の従業員全員が、昼休みにの央へ集められた。
社が古い事務机のにっていた。
には何枚かのがある。
誰も話さなかった。
旋盤も止まっている。
がこれほど静かなのは、正の記憶でもほとんどなかった。
広告
社はくをげた。
「申し訳ない」
男たちの線が集まる。
「このままの数では続けられない」
誰かが息を吐いた。
「来たか」
さな声がした。
社は続けた。
「来から械を半分止める。12には辞めてもらわなければならない」
ざわめきが広がった。
正の胃がくなった。
社が名を読みげ始める。
1。
2。
3。
途で正は、自分の名が呼ばれることを予した。
「川正」
に入った瞬、議と何もじなかった。
ただ、
そうか。
とった。
18働いた。
戦の混乱がまだ残る頃から入り、料が米袋だった期もっている。
真に窓ガラスが割れたまま働いたこともある。
きな注文が入ったには、夜まで械を回した。
そのから、
辞めてほしい。
そう言われた。
社はずつにをげた。
正の番になる。
「川、本当にすまん」
「社」
「何だ」
「料、残ってる分は?」
社の顔が歪んだ。
「必ず払う」
正はし笑った。
以なら、その言葉を信じて族へ何も言わなかったかもしれない。
しかし今は違った。
「いつ払えるかだけ、でしてください」
社が驚いて顔をげた。
正自も、自分がそんなことを言うとはっていなかった。
「で待ってるんで」
社は頷いた。
「分かった」
そのの夕方。
正はをた。
いつもなら真っすぐ帰るところを、途で度ち止まった。
福田古物が見える。
ガラスケースのには、らないの腕計やラジオが並んでいる。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和27年、戦争未亡人が開いた小さな店の50年
昭和27年の春。戦争で夫を亡くした三十歳の女性は、八歳の息子を育てるため、自宅の一角に小さなたばこ屋を開いた。初めて売れた一箱のピース。窓の横で宿題をする息子。毎朝やってくる常連客。決して楽な暮らしではなかったが、小さな窓の向こうには、いつも誰かの声があった。やがて息子は成長し、町には自動販売機が増え、馴染みの客も一人、また一人と姿を消していく。そして開店から五十年、彼女は店を閉める決心をする。時代|歴史|昭和|夫婦3.7万字5 192 -
完結第10話
受話器の向こうの春
昭和19年、神戸。幼いころに母と弟妹を亡くし、親戚の家を転々としてきた15歳のハルは、自分の力で生きるため、電話交換手を目指す。厳しい試験と訓練を乗り越え、ようやく手にした仕事。失敗ばかりの日々も、優しい先輩や仲間たちに支えられ、ハルは初めて自分の居場所を見つけていく。受話器の向こうには、家族を思う声、助けを求める声、遠い街で働く仲間の声があった。しかし戦況が悪化するにつれ、つながらない回線が増え始める。戦火が迫る神戸で、少女が守ろうとしたものとは――。時代|歴史|昭和1.5万字5 140 -
完結第20話
大正、子守奉公の少女
大正時代、貧しい農家に生まれた十一歳の少女は、「三度の飯」を条件に子守奉公へ出された。赤ん坊を背負う毎日から工場近くの家、東京の屋敷へ。三年分の奉公賃は家族に渡され、働く場所も自分では決められなかった。やがて海を越えて旅順へ渡った彼女は、子どもたちの世話をしながら、文字を覚え、針仕事を学び、少しずつ自分の世界を広げていく。誰かのために働くことしか知らなかった少女は、いつか自分の人生を選べるようになるのだろうか。時代|歴史|真相2.8万字5 366 -
完結第20話
昭和62年、国鉄最後の日に駅弁を一つ売らなかった理由
昭和62年3月31日、国鉄最後の日。森渡駅で三十年以上、鶏めし弁当を売り続けてきた宮原澄江は、最後の一個を売らずに残した。翌日から駅の売場はなくなり、長年守ってきた商売も岐路に立たされる。新しい販売条件、息子が勧める国道沿いの店舗、従業員たちの生活。変わりゆく町で、澄江は初めて自分の仕事と向き合い始める。なぜ彼女は、最後の弁当を売らなかったのか。時代|歴史|昭和2.8万字5 169