"昭和33年、父が隠した高校合格通知" 第3話
修は父を睨んだ。
「俺がていっても何ともわないんだな」
正吉は答えなかった。
その沈黙が最の押しになった。
修は玄関をびした。
夜のはえ込んでいた。
本当は駅までくつもりだった。
松本へけば何かある。
そんなことを漠然と考えていた。
けれど30分も歩かないうちに、自分がどれほど何も考えていなかったかに気づいた。
所持では何も持たない。
宿もない。
15歳の自分を雇ってくれる所の当てもない。
それでもへは戻りたくなかった。
裾のをむと、建具の作業にかりがついていた。
皮肉だった。
父が勝に決めた奉公先。
そこへ自分から向かっている。
修は戸を叩いた。
では、親方の栄郎が鉋の刃を研いでいた。
50を過ぎた柄な男で、父とは若い頃からのりいだった。
「修?」
栄郎は驚いた。
「こんなにどうした」
修は俯いた。
「泊めてください」
栄郎はし黙った。
「か」
修は答えなかった。
栄郎はそれ以聞かなかった。
「奥に布団がある」
その夜、修は建具の畳で眠った。
いや、眠ろうとした。
い布団のでも、父の言葉が何度も聞こえた。
《の子どもに何が分かる》
修は悔しくて、暗ので何度も歯をいしばった。
翌朝、鉋がを削る乾いた音で目を覚ました。
シュッ。
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シュッ。
定の隔で、肌をく削っていく。
修が起きて作業へると、栄郎はすでに障子枠を組んでいた。
「顔洗ってこい。飯あるぞ」
ちゃぶ台には噌汁と麦飯、沢庵が用されていた。
修は無言でべた。
べ終わった、作業へ戻り、栄郎へ言った。
「俺、ここで働きます」
親方のが止まった。
「から?」
「今からでもいいです」
「は」
修の表が固まった。
「きません」
栄郎は鉋を置いた。
「受かったんだろ」
修は驚いて顔をげた。
「なんでってるんですか」
「正吉から聞いた」
「いつ?」
「通が来るだ」
修はが分からなかった。
「来る?」
「あいつ、おならたぶん受かるって言ってたぞ」
胸の奥にまたりが湧いた。
「だったら、なんで」
「だろうな」
「分かってますよ!」
修はわず声を荒げた。
「がないんでしょう。だから俺に諦めろって、それだけでしょう!」
栄郎は静かに修を見た。
「いや」
「何がですか」
「おはまだ、全部はらん」
修は黙った。
栄郎は作業台へ腰をろし、懐から煙を取りした。
「正吉もな、おくらいの、学へきたがってた」
修は眉を寄せた。
「父ちゃんが?」
「ああ」
「勉嫌いだったって、自分で言ってましたけど」
「嘘だ」
栄郎は煙にをつけた。
「昔は、今よりよっぽど勉好きだった」
修には信じられなかった。
で本を読む父など見たことがない。
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聞は読むが、仕事と相の記事ばかりだ。
「試験も受けた」
「どこの?」
「松本の旧制学だ」
「……受かったんですか」
栄郎は煙を吐いた。
「受かった」
修は言葉を失った。
しばらくして聞いた。
「でも、父ちゃん、学ってないじゃないですか」
「ああ」
親方はしだけ目を細めた。
「けなかった」
「どうして」
栄郎はすぐには答えなかった。
作業のでは、解けが軒からぽたぽた落ちている。
「正吉の父親――おのじいさんがな」
そこで度、言葉を切った。
「格通を隠したんだ」
修は息を止めた。
「……え?」
「正吉は落ちたとって、諦めた」
親方の声が、くに聞こえた。
「それから俺と緒に、所へ奉公にた」
修は何も言えなかった。
父が自分と同じ頃に、
同じように試験を受け、
格し、
そのらせを隠された。
「何かしてからったらしい」
栄郎は続けた。
「親父さんが酒んだ、ぽろっと言ったんだと」
修ののに、昨の景が蘇った。
仏壇の引きし。
い封筒。
父の、
《ってた》
という声。
最初に湧いたのは驚きだった。
だがすぐ、それ以のりが込みげた。
「じゃあ……」
修は親方を見た。
「余計おかしいじゃないですか」
栄郎は黙っていた。
「自分がされて嫌だったことを、なんで俺にもするんですか!」
「……」
「父ちゃん、じいちゃんをんだんでしょう?」
「かなりな」
「だったら分かるはずじゃないですか!」
修の声は震えていた。
「らなかったならまだ分かる。でも自分が同じことされて、それで俺にも同じことするなんて、もっとひどいじゃないですか!」
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