"昭和33年、父が隠した高校合格通知" 第4話
栄郎は反論しなかった。
しばらくして、作業台に置いた鉋をに取った。
「修」
「何ですか」
「俺には正吉のしたことが正しいとは言えん」
「じゃあ――」
「ただな」
親方は刃の角度を確かめながら言った。
「あいつが通を隠した晩、ここへ来た」
修は顔をげた。
「父ちゃんが?」
「ああ」
「何しに」
栄郎は度、修を見た。
「おを本当にうちへ入れていいのかって聞きに来た」
「自分で頼んだくせに?」
「だから悩んでたんだろ」
修には理解できなかった。
栄郎は続けた。
「『あいつをここへ入れたら、俺と同じになる』って言ってた」
修の胸が詰まった。
「それでも通を隠したんですか」
「ああ」
「おかしいじゃないですか」
「なんて、そんなもんだ」
栄郎はさく息を吐いた。
「自分が番嫌ってた親と、気づいたら同じことしてる。それで自分が番驚くんだ」
修は何も言わなかった。
親方が最に言った。
「正吉が何を考えてたか、聞くなら本に聞け」
「話すといますか」
「話させろ」
修は窓のを見た。
の残るの向こうに、自分のがある。
逃げたままでは終われない。
っている。
まだ許せない。
それでも今度は、父のから聞かなければならないことがある。
修は昼過ぎまで建具を伝った、でへ戻った。
父は納にいた。
鋸を研いでいた。
「父ちゃん」
正吉のが止まる。
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修は入にったまま言った。
「父ちゃんも、格通隠されたの?」
正吉の横顔が固まった。
「さんから聞いた」
い沈黙。
やがて、正吉は鋸を置いた。
「ああ」
修は歩、納へ入った。
「じゃあ何で、俺にも同じことしたんだよ」
父は答えなかった。
「自分が悔しかったんだろ?」
正吉のがゆっくり握られた。
「きたかったんだろ?」
「昔の話だ」
「昔ならいいのかよ!」
修の声が納に響いた。
「父ちゃんがじいちゃんをんだみたいに、俺も父ちゃんをめばいいのか!」
正吉の顔が歪んだ。
それでも、すぐには何も言わなかった。
修はさらに言った。
「俺、父ちゃんが分からないよ」
「……」
「何も言わないから!」
その瞬、正吉が初めて修を見た。
そしてい声で言った。
「俺も分からんかったんだ」
修は息を止めた。
「何が分からなかったんだよ」
修が聞くと、正吉は鋸を脇へ置き、納の壁に背を預けた。
しばらくを見ていた。
「俺はな」
ようやくをく。
「ずっと、親父のせいで学へけなかったとってた」
修は黙っていた。
「実際そうだった。通を隠された。落ちたとわされた。俺は泣いたよ」
正吉は苦く笑った。
「今のおと同じだ」
修は父が泣く姿を像できなかった。
正吉は続けた。
「学へきたかった。算術が好きだった。本を読むのも好きだった。先にも『受けろ』と言われた」
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「じゃあ俺と同じじゃないか」
「ああ」
父は認めた。
「だから若い頃は親父をんだ」
所へ奉公へ入り、朝から晩まで働いた。
周囲には学へ通う同代のもいた。
制を着て汽へ乗る姿を見るたび、
「本当なら自分もあそこにいたのかもしれない」
とった。
「の頃なんか、本当に親父の顔も見たくなかった」
正吉は言った。
「学さえってりゃ、もっと違う仕事ができた。もっと稼げた。こんな田舎でを切ってるじゃなかったってな」
「だったら――」
「でも俺が親になったら」
正吉は修の言葉を遮った。
「しずつ、親父が見てたものが分かってきた」
「何を」
「米びつの底だ」
修は黙った。
「来払わなきゃならん借。病気になった妹の薬代。肥料代。税。が続いたら収穫がどうなるか。そんなものだ」
正吉は自分のを見た。
「子どもの先を見る余裕なんかなかったんだ。次のをどう越すかで精いっぱいだった」
修のりは消えなかった。
「だからって、隠していいのかよ」
「よくない」
正吉はすぐ答えた。
それがだった。
「じゃあなんで」
「怖かった」
父がそう言った。
修は初めて、正吉のからその言葉を聞いた。
「何が?」
「おが受かるのが」
「……」
「受からなきゃ、俺が悪者にならずに済んだ」
正吉の声はかった。
「試験に落ちたなら仕方ない。さんのところで働けばいい。
俺もおも、誰も責めなくて済む」
修は息を呑んだ。
「でも受かった」
「ああ」
「通を見て、嬉しくなかったの?」
正吉は答えなかった。
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